ヒロインになる魔法

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 結局、百冊目となる最後の本を僕は読み終えてしまった。  先輩は最後のヒロインに姿を変えると、 「とても楽しかったよ、ありがとう。」  と、ずいぶん満足げにお礼を言って笑った。  僕はセーラー服姿の先輩と最後の一日をひっそりと過ごすことにした。朝ごはんはパンケーキを焼いて、先輩が好きなメープルシロップをたっぷりとかけて食べた。昼まではひたすら人生ゲームで遊んだ。昼はピザを出前で頼んでコーラとともに胃に流した。その後はお笑い番組を見て二人で笑い、ホラー映画を見て悲鳴を上げる僕を見て先輩は大笑いした。  あまり表情を変えない人として社内では「仕事しかできない鬼」とか「社長が作ったお手本アンドロイド」なんて陰口をよく言われていたが、その頃の先輩が嘘の様だった。  夜は僕が唯一作れる焼きそばを作った。先輩のリクエストだった。「期待していたより美味しいよ。」と先輩は言ってくれた。まあまあな味だったのだろう。自分で食べても大して美味しいとは思わなかった。  それからは僕が入社したての頃に遡り、思い出話が始まった。時がこのまま止まってしまえばいいのに──と何度思っただろうか。  もう時刻は夜の十一時を過ぎていた。残された時間はあと一時間もない。 「先輩は学生の頃、セーラーでしたか?」 「中学はセーラーだったよ。」 「じゃあ中学の先輩はそんな感じですね。」 「アラサーになる私に中学時代の面影はないぞ、多分。それに髪もこんな二つ結びにしたことないしな。」  先輩の態度は最後まで全く変わらなかった。僕も悲しみをなるべく出さないように細心の注意を払った。  先輩の最後の日は素敵な日にしてあげたい。 「君には色々してもらった。本当に今までありがとう。」 「こちらこそ、色々ありがとうございました。楽しかったです。」 「忘れないでほしいのだが、君はさ、人より少し不器用なだけだ。だから、自信を持つこと。いいね?」  そう言って今日はお酒を一滴も飲んでいないはずの先輩は僕の肩を軽く叩いた。  先輩は僕のことを玄関で見送った。僕は深いお辞儀だけして、先輩の家を後にした。もう顔を見ることは出来なかった。涙が止まらなかったのだ。今までの思い出が走馬灯のように思い出される。大粒の涙が溢れて、溢れて仕方なかった。  これでもう二度と先輩とは会えない。  初めて会った時から先輩はずっと素敵だった。  今でも僕は先輩が大好きだ。
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