百の手

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 鬼神の言葉を聞いても、坊主は首を振る。 「儂の命は幾ばくも無い、だったら世話になっていた主家へ、最後の恩返しをさせて貰って、あの世へいくよ」  坊主は謎めいた笑みを浮かべて、鬼神を見つめる。  顔には年輪が刻まれ、人生五十年と言われるこの時代の人間にしては長生きをしているのが分かる。 「百でいいんだな?」 「ああ、百だ」  この時代、生まれたての赤ん坊は死亡率が高い。恐らく生まれてから十年も経たない間に、百の手を貸すことになるだろう。  不老不死の自分にはなんてことない時間だった。法力比べの対価としては少々少ない気がする。  だが、坊主が頼み込むぐらいだ。月野木家というのは、跡取りに恵まれていないのかもしれない。 「良かろう、勝ったのはおまえだ。言う事を聞いてやる」  鬼神はさして気にせずに、坊主に使役されることになった。
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