百の手

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百の手

「これから生まれる赤子に、百の手をかけて欲しいんじゃよ」  江戸時代の初期、奥深い山中。法力比べで勝ったしなびた袈裟の坊主は、鬼神を使役する内容を、そんな風に話してきた。 「赤子というのはどこの子のことだ。その辺で生まれる子供でもあるまい」  角が見え隠れする頭に、真っ赤な肌、それに派手な白い直衣姿の鬼神は坊主に向かって言い放つ。  坊主はその言葉に深く頷く。 「儂の主家から嫁に行った娘がおってな、月野木家というところなんだが。嫁ぎ先は飛騨の方の庄屋で、赤子が腹にいると言うのに、姑が嫁に厳しく当たって赤子も流れそうなんじゃ。そこでだ、おまえさんに、月野木家に生まれてくる赤子に手を貸してやってほしい。何、たったの百の手を貸してやってくれればいい。危ない時にだけ手を貸してやって、百を超えたらそれで終わりだ」 「おまえの望みはそれだけか? 自分が良い思いをしたいとか、黄金の山が欲しいとかないのか?」
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