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You are the centipede
日は上った。
家電量販店の開店時間が近付くと、山中とキャッチの男の後ろはポケモンカードを転売して稼ごうとする大人達が長蛇の列を作っていた。山中とキャッチだった男は後ろを振り向くと、蛇と云うより人々の地面に伸びた脚から百足を想起した。
「藤原君?」
「はい?」
キャッチだった男は、山中に自分の名前は藤原だと伝えていた。
「俺、昔ムカデの英語をハンドレッドレッガーだと思っていたんだ」
「どうして?」
「漢字で百足って書くから」
「なるほど。でも本当に百足みたいですね」
「そうだ。皆、転売して小遣いを稼ごうと思っている。俺も現在の手持ちは10万円だが、明日には20万円さ」
店員が整理券の配布を先頭の山中と藤原から始めた。混乱を恐れた警察から指導が入り、先頭から何箱の購入希望なのか店員が伝え聞いて回るのだ。山中はポケモンカードのボックスを10万円分、25箱、藤原は2箱と伝えると、本日まで有効の予約整理券を手渡された。もう行列を作る必要は無い。店員がどんどん聞いて回ると、看板を持った仲間と共に拡声器を向けてアナウンスし始めた。
「本日のポケモンカードは全て販売終了になりました。繰り返します。本日分のポケモンカードは整理券を持っている方の分だけで販売終了です」
百足と化していた行列がジェンガの如く崩れる。百足の頭からこれを見ていた山中と藤原は、ポケモンカードが買えなかった敗者達を堂々と見下ろした。
「俺達は勝ったんだ」
藤原は滑稽な光景を見つめながら、呟くように山中に伝える。
「ただ早く並ぶ。それだけで勝てるんですね」
何を今更と云った感じで嘲笑する山中。
「世の中は早い奴が勝つんだ。ケータイ小説を初めて書いたYoshiって作家が居る。文章は稚拙、話も下手糞、でも売れたのは最初にケータイ小説を始めたからさ」
「なるほど……」
「HIKAKINもはじめ社長もそうだ。Youtuberだって始めたのが早い奴らが勝った。あいつらの動画なんて糞つまらない」
藤原も日頃からそう思っていたので噴き出して笑った。
「でも早いから勝った」
「そして続けてきた」
「なるほど……」
「働くことと稼ぐことは違う。どうする?」
山中の質問が分からなかった藤原は、
「どうするって?」
「このままポケモンカードを買うか? それとも近くに居る中国系の転売ヤーに整理券を渡すか?」
「そんなこと出来るんですか?」
「連中なら交渉次第でその整理券に2万円は出すかもしれない」
「2万!?」
「そうだ。定価4000円弱のポケモンカードが3倍近くで売れる。ババ抜きみたいなもんさ。ババはとっとと渡しておいた方が良い」
「確かに、そうですね。で、その中国人は何処に?」
「この近くに公園がある。そこで何人かを仕切っている中国人っぽい男を見つけたら交渉してみるんだ」
「分かりました。それじゃあ!」
藤原は山中に別れを告げて、百足の頭から抜けて行った。
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