出会い

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始業式を終え、仲間と連れ立って下校する。桜は枝が透けて見えるみすぼらしいものだった。昨日の暴風雨のせいだ。 「スガちゃんさ、結局、日比野目指すんだよね?」 またか。小森は今年に入って志望校の話ばかりだ。 「いや、親が勝手に言ってるだけ。」 「でも日比野高校志望するの、うちのクラスは菅野だけだって橋本が言ってた。」 「滑り止めに受かればそれでいいや。共学行きてーな。」 「やっぱ東大目指すの?」 小学校の頃からずっと同じクラスの戸倉。 「東大は無理だけど……でもうちそんな裕福でもないし、国立じゃなきゃ金出してくんねえよ。」 「スガちゃんがエリートになって金持ちになって、丘の上に豪邸建てりゃいいじゃん。」 「光の丘?やだよ、この辺なんて。こんな町。」 日比野高校というのはここから市をふたつ越えた、この県の中心部にある有名な進学校だ。駅前の有名予備校組はみんなそこを目指している。ちなみにほとんどが光の丘中の生徒たちだ。進学校を目指す中学生たちがこの予備校に集い、中には電車で1時間もかけてわざわざ通ってくるやつもいるらしい。ちなみに虹の森中学の生徒は、2、3番めのクラスに多い。 俺は光の丘の奴らが多い特進クラスに混ざり、夜遅くまで受験対策をみっちり叩き込まれている。特進というのは……1番のクラスの、そのまた上だ。日比野どころかその先の大学受験までを見据えてるような奴らの集まるクラス。校内の一斉テストの成績により、どのクラスに振り分けられるのか決定する。公立だが富裕層学区の光の丘中学、さらには周辺のボンボンが通う私立中学の生徒たちまでもがいる中で、ごく一般的な家柄の庶民の俺が混ざっている。シンデレラボーイというのが、特進クラスで俺につけられている陰のあだ名らしい。 ー「じゃーな。」 「うす。」 みんなが次々と道を曲がり、俺ひとりが残される。4丁目と3丁目は中流の地域、2丁目はまあそれなり。でも2丁目に庭付き3階建て、高級国産車を2台持ってる及川の家は、親父がでかい会社の偉い人だから、光の丘でもおかしくないレベルらしい。母親が言ってた。1丁目は、とにかくこのニュータウンに住みたくて無理して引っ越してきた人たちが多い、貧乏ではないが決して恵まれてもない程度の地域。 俺の家は、クラスの中で言えば「最下層」だ。なんせ"あっち側"と面した場所にあるんだからな。それでもほとんどいじめられず、ここまでわりと平穏にやってこれたのは、俺が日比野を目指す駅前予備校の特進コース生だからかもしれない。だから光の丘の友人も多いし、以前からたびたび部活の試合で光の丘中に行って、そこの奴らとゲラゲラ笑いあってる姿が、特別感みたいなものを出してたらしい。 ……まあ、表立っていじめられてないだけだ。結局やっかみの標的。みんなうちの母親とおんなじだ。男の友情だって、女子のグループと同じようなもんだ。陰で何を言われてるかわかりゃしない。 でもまあ仕方ない、ここは呪われた町だから。住んでりゃ頭もおかしくなる。ここを出られるなら、日比野だろうがバカの金川商業だろうがどこでもいい。 ああ、今日も予備校。マジだりーな。死なねえかな。誰がって、誰でもないけど、とにかく死んでほしい。死んでくれ。死んでくれ。
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