50人が本棚に入れています
本棚に追加
昇る朝
そろそろ起きなくちゃ。お弁当。……朝ごはんも。
カーテンの隙間から漏れる光の強さに、いまこれを開けたら耐えきれぬほどの朝焼けが広がっているような気がした。頭がなかなかさめそうにない。いつもならすぐに起きれるけれど、今朝はまどろみがなかなか消えない。
裸のまま、疲れて眠ってしまった。背中から抱きかかえている賢介も同様だ。とほうもない虚しさと絶望と寂しさが乗り移ったかのように、昨夜は苦しくてしんどかった。夕飯も食べず、賢介に抱きしめてもらって、セックスをして、疲れてぐったりとした身体に突き刺さる空虚を消し去ろうとしたけれど、まだ少し、残っている。
自由に生きることを許されなかったふたりがいる。
大人になるまで愛し合えなかったふたりがいる。
……愛を失って尚、取り残されたまま自由になれない少年がいる。
言葉はもう無力で、自分に与えられるものが底を尽きかけている。それでも望まれる限り、少年と共に歩んでいきたいと思う。
ー「ん・・・うー・・・・・ううん・・・」
賢介がうめきながら、布団をかかえるように佐伯の身体を強く抱きしめた。しかしまだ眠るのかと思ったら、背中に押し当てられた彼のまぶたが開いたのを感じた。佐伯が寝返りをうつと、いつも以上に不機嫌そうな顔の賢介と目が合い、賢介のほうが先に「おはよ。」と言った。この男はこう見えても、寝起きはいいのだ。
「まだ寝れる?」
「うん。まだ……4時半。」
「まだ寝よう。」
「賢介くん……今日、お弁当なくてもいい?」
「ん?いいよ。眠い?」
「虹の森を散歩してくる。」
「へ?」
「なんとなく。今日、遅番だし。」
「……わかった。待って。」
そう言うと賢介は大あくびをしながら思いっきり伸びをした。
「俺の車でいこう。」
「いいの?」
「たまにはふたりで散歩したい。」
「そう。」
「その前にシャワーも浴びよう。」
「うん。」
賢介は、佐伯のすることにほとんどその理由を問わない。いつだってこの男を信じているのだ。簡単に身支度を済ませ、玄関を出る前にキスをした。
「うわ、きょうは晴れるな。すんごいよ、朝焼け。」
サングラスをかけたその見た目とは不釣り合いに、賢介は上機嫌に振る舞った。気を使わせているのかもしれないが、つらいときも楽しそうにそばにいてくれる賢介に、佐伯はいつも救われている。一緒に寂しくなんてならなくていい。どんなに落ちても、知らないふりをしてほしいと思う。
最初のコメントを投稿しよう!