昇る朝

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夕焼けみたいだ。朝からこんなふうに染まった空を見たことがない。 この地には、あの日以降も何回か訪れた。警察を伴ってだ。そのたびテレビ局の車やヘリコプターまで飛んできて、その様子をつぶさに撮影されながら、何度も同じことをたずねられ、何度も同じことを説明した。新たな証言があればその日のニュースや新聞で即座に報道された。 忌々しい記憶ばかりの土地だ。あのアパートは去年取り壊されて、いまは更地になっている。だがそこがぽっかりと空いただけで、カラスモリは何も変わらず色あせた古い家々が建ち並び、虹の森にのまれんとするかのように………いや、まるでなにごともなかったかのように、静かな朝を迎えていた。その反対側に建つ赤い屋根の家。そこはまだあのときのまま残されている。しかし人はもう住んでいない。去年、ひっそりと県外に引っ越していった。 たくさんの花束と、菓子やジュース類が更地に置かれている。こないだ丸1年経った日に、人々が置いていったのだろうな。花はどれも少し萎れている。これらはもちろん、あの残虐非道な男のために供えられたではない。……すべてが終わってから、ようやく気にかけてもらえたのか。花束を置いていった人たちは、みんな今までどこに隠れていたのだろう。 「あ………」 小さな影が花束の脇に地蔵のように佇んでいる。 「ミケ………」 そうか、お前もきっといちばんの友達だったんだ。あのときのように猫はしばらくこちらの様子をうかがっていたが、意を決したかのように立ち上がると、久方ぶりの友に再会したかのように、しっぽを立てて鳴きながらやって来た。 「ミケ、久しぶりだね。相変わらず自由きままか。」 のどもとをくすぐってやり、耳を指先でなでてやると………ほら、ゴロゴロいいながら地面にひっくりかえって腹を見せるんだ。こいつはこれが好きなんだ。 燃える朝焼けのその向こうから、淡いだいだい色の青空が見えてきた。 ……さて、このあとはどうしよう。いや、どうなるのだろう。でも、どうしても来たかったんだ。この町には住みたくないし嫌いだけれど、「思い出」はここにしか無いのだから。
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