出会い

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呪われた土地だったと思う。 まあニュータウンなんてどこもだいたい呪われてるよ、だっていろんなもの潰したり埋めたりしたとこに、むりむり家を建てるんだから。 ちょうど、うちから丘の上までがそういう呪われた町だった。丘の上がいちばん「ランク」の高い家、そっからグラデーションのように値段が下がり、うちのあたりがいちばん安い土地らしい。だってうちの真向かいは、なんにも手付かず、昔からそのまんまの家が並ぶ、古ぼけて汚い居住区だったから。なんか、よくわからないけど、手に負えない人たちが住んでたみたいだ。それはともかく、見事に道路いっぽんで、まっぷたつにはっきり分かれてた。うちと、向かい。 ー「まーたいるね~、あの変な子。」 母親が窓から外を見て眉をしかめた。 「もー、あっち側もすぐ整備するからってここにしたのに。何十年待てばいいのよ。やっぱり2丁目の方にすればよかった、お父さんがこんな早く出世できるって見込みがあれば絶対そうしてた。」 何遍おんなじこと言いながら暮らすんだろう、この女。何十年って、俺がここに来たのが小3で、春から中3のいま。せいぜい5、6年だろ。それともこの先何十年、おんなじことぼやきながら生きてくということか。 "あっち側"が忌々しくて憎くて仕方ないようだ。窓の外を見なけりゃいいだけだろ?"あっち側"の人たちがお前に何したっていうんだよ。 って、俺が親父の立場なら言ってるに違いない。 けど親父は我関せず。いや我関せずでいいんだ、あっち側のことなんか。けど親父は母親にも我関せず。俺にも我関せず。成績の順番と進学する高校には関心があるみたいだが、俺という生き物には、我関せず。つまんねーリーマンのじじいだ。電車ん中で、おんなじ顔して地蔵みたいに並ばれたら、たぶん俺は親父のことなんか永劫見つけられないだろう。 「あの子おなじ学区よねえ?いくつなんだろ。学校にいた?あんな子。」 「いないと思う。」 涼介が外を見ずに答える。 「いやねえ、ああいう子っていつでもいるわね。お母さんが子供の頃にもいたもん、ああいう子。なんかちょっと変な子。」 ……変な子。変な子ね。お前のいう変って、ただ単に、あっち側に住んでるってだけのことだろう?このニュータウンのガキどもが通う、虹の森小、中、それから"勝ち組"家庭の奴らが通う光の丘の学校にだって、バカみたいな変なガキはたくさん居るよ。ニュースにならないだけのいじめなんか、持ち回りの当番制かのように被害者が変わりながら続いてる。原因もやべえぞ、男なのにピンクのラインが入ったスニーカーを履いてきた、ただそれだけがキッカケで、最終的には校舎裏でリンチまでいくんだ。正気の沙汰じゃない。ドカーンと、いろんなもの踏みつけて壊したその上に平然と暮らしてるもんだから、俺たちはきっとものすごく傲慢で鈍感で盲目だ。ここで生きてたら、判で押したような地蔵のリーマンになって、口うるさい女に文句言われながら生きてくくだらないジジイになりかねない。 母親が庭の水撒きに行ってから、俺はそっと窓外を眺めた。平屋ばかりの、茶色い町。子供なら、行ったらダメよと言われる町。……変な子。なんだろう、それ。その変なのと俺らと、いったい何が違うっていうんだ。 目の前に建つ、築年数がひときわありそうな木造アパート。それの、外にせり出したサビだらけの階段の真下。……またうずくまってる。白くて細くて、いつも寒そうな子。 わかんないかな、母親も父親も、あの子をチラ見して過ぎ去っていく近所の人たちも。あの子は好きでああしてるんじゃない。あの子は学校に行かせてもらえてない。わかってんだろ、あの子は親にああさせられてるんだ。 涼介は、うずくまる子供をじっと見つめた。きょうは肌寒い。それなのに半袖に短パン。痩せた腕と足がよけいに寒々しくて、痛々しい。 顔上げないかな、とぼんやり眺める。いくつくらいで、どんな顔してるんだろう。なんで、あんなことさせられてるんだろう。
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