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黒々と磨きあげられた廊下を足音を忍ばせて走る。
典型的な古い造りの日本旅館。
廊下と各居室とを隔てるのは襖一枚。
当然、鍵など無い。
小高い山の中腹という地形に合わせたためか幾つかの部屋を一ブロックにして高低差をつけ、数段ずつの階段を交えながら長い廊下で繋ぐ構造だった。
要するに、蛇のようにやたらと細長い。
荒い呼吸を響かせないように気をつけた。
しかも着物の裾が脚に絡まるから全力疾走は望めない。
自然とそうなるストライドは、時代劇やコントで観た『慌てる町娘』みたいで可笑しさが込み上げる。
あの直角を曲がれば最奥の部屋に至る━━━
華麗にコーナーを曲がってバッと足を踏ん張った。
慣性の法則で身体が流れる。
そのまま横滑り、まさに居室の真ん前で停止した。
ナイス!
今日の足袋も良い滑り具合だ。
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