おめでとう

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『おめでとうっ!!』 と、いう沢山の声で目が覚めた。 周りを見ると誰もいない。 いつもの景色だ。 (なんだ…夢か…。) よく覚えてはいないが、誰かがお祝いをしてくれている夢だった。 あまり人に『おめでとう』と、言われたことのない人生だった私にはそれが夢であってもとても嬉しい気持ちになれた。 休日の朝をゆっくり過ごす。 ふと、机の上がいつもと違う事に気付いた。 小さな箱がある。 綺麗に包装されたそれはどう見てもプレゼントなのだが、見覚えはなかった。 (何か危険な物じゃないだろうな…。) 恐る恐る箱を振ってみる。 特に音はしない、物も軽かった。 (空か?) 取り敢えず危険な感じはしないため、開けてみることにした。 (突然煙が出て老人になるのは勘弁してくれよ…。) ゆっくりと箱の蓋を開けてみる。 するとーーー 「やっぱり空じゃないか。」 しかし一体誰がこんなイタズラを…と、その時だった。 『おめでとうっ!!』 突然、目の前に立体映像のようなものが現れた。 箱の中は空だったのに一体どういう仕掛けなんだ!?それに目の前の人達は私の知る人間とは違っていてファンタジーの中に出てきそうな姿をしている。 「えっ…と、私は一体君達に何をお祝いしてもらっているんだろうか?」 そう、私は今日誕生日ではないのだ。 すると、向こう側にいる人達は笑顔で答えた。 『今日は貴方の100作品目の完成のお祝いですよ!!』 (ーーー作品…。) そう、私は趣味で文章を書いている。 小説と呼べるかどうかもわからないが…。 「そうか、それでお祝いを…。ありがとう。正直、自分でも気付いていなかったよ。もう、そんなに書けていたことに。」 景色が私の作品で染められてく。 私達を取り囲んで、ゆっくり流れて行く。 …最後まで、書けずに形にならなかったものもある。 …苦労しても、読まれず埋もれてしまったものもあった。 『私ね、これ好きなの!』 『わたしはこっちー♪』 そう言って次々と、それぞれの好きな物語を抱きしめてゆく。 『そっちの世界の事はわからないけど、こっちの世界には届いているよ。 みんな昔の作品を大切にしてるし、新しい作品を楽しみにしているよ。』 沢山の笑顔が、私に降り注ぐ。 『…そうか…嬉しいよ、とても。…ありがとう。』 その気持ちが、私にとって一番のプレゼントだった。 楽しい時を過ごし、気がつけばもう夜で、私は机にうつ伏せになっていた。 いつもの景色だ。 (…夢…いや、夢じゃない。) 手に握りしめていた買った覚えのない綺麗なペンを天にかざした。 月に照されて、輝いている。 向こう側の世界が何処にあるかはわからない。 (また、逢えるといいな。) 今度は、隔たりのない場所で。 ノートを開いて、ペンを走らせる。 101作品目が願うように始まる。 あの優しい笑顔を、 いつか、同じ空の下で、 交わし会えるように。
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