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「なぜによりによって、ここを選ぶのあなたは、、、」
母はパンフレットと日々希を見比べて言う。
パンフレットには、卒業後の進路として有名大学名がずらっと並ぶ。
その後は政治家、財界、実業界、ベンチャー企業など、社会の第一線で活躍している卒業生が多いようだった。
「全寮制で特待生だから!」
母の言葉に、なにか引っ掛かるものを感じはしたが、日々希は胸を張っていう。
友人たちのほぼ100%がこの村をでて、ここよりも程度は違えど都会の学校へ行く。
帰ってくるのは10人に一人、いるかいないか。
「ひびきも自分の歩く道を、自分で決める年頃になったということだよ。
そろそろ、社会にでていろんなことを学ぶ時期なんだ。由美子さんもそうだっただろう?そうして、わたしと出会って、世界中を旅して、ここに落ち着いた。
わたしたちの愛する息子を、危険に満ちた世界だからといって、わたしたちの腕の中に閉じ込めていてはいけないんだ」
父が母を優しく慰める。
母は鼻を盛大にすすった。
日々希の両親は結婚20年たってもラブラブである。
日々希は、自分がお邪魔虫ではないかと幼心に何度も思ったことがある。
「そうね、恭一郎さん。愛する子だからこそ、いったん手放さなければならないのね、、、」
「そうだよ、由美子。
わたしたちは、ひびきを信じて、そして、彼がいつでも帰ってこれる場所としてあり続けよう、、、」
両親はガッツリ抱き合い、日々希の存在を忘れて、二人で子供の成長と別れに浸ったのだった。
同級生の10人はお互いの将来を語り合う。
田舎から都会へ、可能性の扉が大きく開かれ、できないことは何もないように思われたのだ。
「ひびき、ひびき、10年近く何もかも一緒に過ごしたんだぜ?
お前と毎日顔を会わせないのが辛いよ、、俺のことを毎日思い出してくれ、、、」
友人の一人海斗は父に抱きついて泣いた母のように、日々希を抱きしめた。
「海斗、、お前も元気で、みんなも、、」
海斗が声を圧し殺して日々希の肩で泣くと、10人の仲間たちはお互いの胸や肩や背中に顔を押し付けあい、別れを惜しんで泣いたのだった。
彼らは全国へ散らばっていく。
畜産や農業の学校へ行く友人もいる。
日々希は、まだ将来を決めていない。
そうして、15の春、藤日々希は超ド田舎から都会の全寮制の学校、大和薫英学院の総合クラスへ行くことを決める。
その学校へは数人が受験していたが、合格したのは日々希だけであった。
日々希はその学校がどんなところか全くわかっていなかった。
全寮制で寮費と学費が全額無料の特待生。
日々希の決め手は本当にこれだけだったのである。
そして、入学式当日、早々に後悔することになった。
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