100文字リダクしョん

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「アルファベットは26文字でしょ? 小文字と合わせても52文字。でも日本語って、ひらがなだけで71文字あるんですよ。カタカナを加えると倍、142文字もある」  十名ほどが作業をするスタッフルームに、テレビ番組の声が響いている。文科大臣の会見について解説するワイドショーが放送されていた。 「国際化の中、日本語を勉強したいって人も増えてるんだけど、この文字数はやる気を挫かせちゃう。これはよくないよね、じゃあ減らそう、っていうのが今回の判断なんですよ」  そこへ、一人の男がスタッフルームにやってきた。 「ちょっと聞いてくれ」胸元のネームプレートには相田と書かれている。肩書きは一言、リーダーとだけあった。「文科省の案件、次の発表を急ぎたいと連絡がきた」 「すでに何文字かピックアップしてあります」スタッフの一人が答えた。 「今回の【ヘベペ】は一定の理解をもって受け入れられている。同じように、形が似ているものから削除しよう」  相田は喋りながらも自分のデスクについた。メールをチェックすると「まだ?」「早く」とせっつくメッセージが来ていた。文科省の担当職員からだ。高慢に見られないギリギリのラインで催促している様子が窺えて、相田は思わずにやりとした。 「形が似てる、となると、このへんか?」  相田とは付き合いの長い、政宗という男が資料を持ってきた。ピックアップされた「削除文字案」が書かれている。
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