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雷鳴が響いて目を開けると、村人達は皆、耳を塞いでしゃがみ込んでいた。
弥彦は崖にしがみついて、ぶら下がってる状態だったけど、なんとか無事だった。
良かった…
空は暗くなり、大きな雨粒が数滴、顔や体に当たり、そして痛い位激しく雨が降り出した。
雨が降り出したという事は、私は海に身を投げられる事は無くなるのだろうか。弥彦も助かるのだろうか…
足の力が抜けて両膝をつき、泣き出した空を見上げた。そんな私の姿を、崖下から這い上がって来た弥彦が、驚いた目で見ていた。
何に驚いているの?
村人も私を驚いた目で見ていた。そしてそれは、次第に恐怖の表情に変わった。
何をそんなに怯えているの?
不安になる私の視界に、水の滴る金色の髪が映った。
腰まで伸ばした黒髪。
母の美しい金髪とは、似ても似つかない黒髪。
異形と言われない黒髪。
でも私は
ずっと母のような金髪になりたかった。
翡翠に似ていると父に言われたという、緑色の瞳でありたかった。
それがたとえ、異形と忌み嫌われても…。
「母様、今までずっと私を守ってくれていたの?これが私の本当の姿なの?」
そんな言葉を漏らす私の元に、弥彦が駆け寄ってきて、両手両足を自由にしてくれた。
私は立ち上がって、再び空を見上げた。
雨はまだ激しく降っているのに、私の頭上の雲だけが、少しだけ切れ目を作り、そこから太陽の光が射し込んだ。
それは私の金色の髪を照らして、キラキラと輝かせた。
その姿はどこか神々しく…
「か、神さまだ。雨をもたらしてくれた神さまだ」
村人の一人が、私を見てそんな事を言い出すと、皆一斉に私の前にひれ伏した。
その光景に
この人達はなんて愚かなのだろう。そしてこの世界はなんて小さいのだろう
そんな思いが浮かんで来た。
私はもう、こんな狭苦しい小さな世界では生きていけない。生きて行きたくない。
「弥彦、私の姿を異形だ、神だなどと思わない場所に行こう。二人ならきっと見つかるから。一緒に来てくれるよね?」
私は弥彦に向かって手を伸ばした。弥彦は優しい笑顔を浮かべて、私の手を強く握った。
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