2

6/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
あの一件以来、村長達が押し掛けて来る事はなかった。 翡翠とはお互いに、言葉が通じ合う事は難しかったが、身振り手振りで伝えたいことは、きちんと伝わっていた。 村の中へは翡翠は入れないから、村からの食料の調達は俺が全てしていた。水も、俺がいる時は、村の井戸から俺が汲んできた。 しかし、俺は漁師だから、時に長く家を空ける時もあり、そんな時は食料は保存食のようなものを多く準備し、水は人の目につかない夜中か早朝に、ひっそりと汲みに行くように翡翠に教えた。 そんな決まり事を作りながら、俺と翡翠は、村の連中に煙たがれられながらも、平穏に生活を続けていた。 そして、一年が過ぎようとしていたある日、俺が1ヶ月振りに家に戻ると、戸を開けた途端に翡翠が飛び出して来て、俺に抱きついてきた。 その額からは血が流れていた。 「翡翠!これは?これは誰にやられた?!」 俺が聞いても、翡翠は小さく首を振るだけだった。 「与助…オカエリ。アイタカッタ」 翡翠は両手で俺の顔を包んで、嬉しそうに微笑んだ。 瞬間、俺の目から涙がこぼれ落ちた。 俺がいない間、きっと村の連中に嫌がらせを受けたのだろう。だけど、そんな事は一言も口にせず、ただ俺に会いたかったと言い、辛い様子も見せずに微笑んでくれる。 駄目だ。 もう、不釣り合いだとか、歳が離れているだとか、そんな事は考えてなどいられない。俺は翡翠が愛おしい。たとえこの先、この俺の行動で、翡翠が苦しむ事になったとしても、俺は翡翠を手離したくない。 俺は翡翠を抱きしめた。 翡翠は俺の想いに応えるように、俺の背中に手を回して来た。 俺を見上げた宝石のような緑色の瞳と、俺の黒色の瞳が重なって、俺と翡翠はどちらともなく、顔を近づけた。 そうして間もなく、俺達は夫婦となった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!