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リコ2
アサクラから久しぶりに連絡があったのは3月の下旬の事だった。
この島は私がもともと住んでいたところよりも気候が温暖なので、もう日差しは強いくらいだ。
呼び出されたのは、組織の管轄している学校の敷地内も居住区でもない。
他の組織との境界線近くにあるそこは、島のほとんどが廃墟に覆われているこの町の中でも痛みが激しい区画だった。
約束の時間ピッタリにその場所につく。
鉄筋コンクリートらしき壁はボロボロに崩れ落ちて鉄骨がむき出しになっている。
隙間から入る日差しが淡い色に照らしている。
その瓦礫の中のひと際大きい塊の上にアサクラは座っていた。
出会った時と同じ真っ黒ないでたちだ。
あの時と違うのは私も真っ黒な制服を着ているということと、アサクラの腕の布が不自然に風になびいてることだけだ。
ショックだった。
だけれど、それは声を失うほどでも、泣いてしまうほどでもない位にはこの場所に慣れてしまっていた。
二、三言言葉を交わした後、アサクラは「これからは仕事のパートナーだよぅ。」と笑った。
なんて返したらいいのか分からず「よろしくお願いします。」とだけ答えた。
「さて。」
アサクラは飛び降りる様に瓦礫から降りて立つ。
片腕が無くなってもバランス感覚は狂っていないらしく、危なげは無い。
「ここからが本題だ。」
こちらを見てアサクラは言う。
「本題ってなんですか?」
「俺のお気に入りの場所に連れて行ってやろう。」
なに、ここからはすぐさとアサクラは勝手に歩き始めてしまう。
「ちょっと、待ってくださいよ。」
慌てて後をついていくけれど、道中アサクラは一度も振り返らなかった。
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