モモちゃん、友達が出来る

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モモちゃん、友達が出来る

十歳になったモモちゃんはある養護施設に入ることになりました。 周りは田んぼや畑ばかりが広がる田舎の施設です。 様々な理由で家族と一緒に暮らせない子供たちが十数人、その施設で生活していました。モモちゃんのようにお母さんもお父さんも両方いない子は珍しく、他の子は休みの日には大抵家族が面会に来たり家に一時帰宅をしたりしていました。 モモちゃんには会いに来る家族も帰る家もありませんでした。 でもモモちゃんは寂しくはありませんでした。 何故なら、初めての親友が出来たから。 名前はイチカちゃん。モモちゃんと同じ十歳の小柄な女の子です。 イチカちゃんはお母さんと二人暮らしでしたが新しく出来たお父さんと折り合いが悪く、施設で暮らしていました。イチカちゃんのお母さんやお父さんが休みの日にイチカちゃんに会いに来ることはありませんでしたし、一時帰宅することもなかったので、土曜日や日曜日には二人は長い時間一緒に過ごしました。 柔らかな日差しが降り注ぐ冬の朝、二人は窓辺から蝋梅の黄色い花がほころぶのを眺めました。水仙の花が咲くころ外に飛び出し、風に舞う桜の花びらを掴まえようと跳ねまわり、花桃の愛らしさにうっとりと目を細め、揺れる小手毬の房と戯れました。 二人の行動範囲はぐんぐん広がり施設の庭を出て、からすえんどうの生い茂る野っぱらやたんぽぽの揺れるあぜ道やピンク色の絨毯のようなれんげが広がる田んぼで日が暮れるまで遊びました。 大人しく表情の乏しかった二人の顔がどんどんと生き生き輝くようになり先生たちは驚きました。 「二人ともとっても仲良くなったのね」 施設の先生にそう言われたモモちゃんとイチカちゃんははにかみながら頷きました。 「うん。私たちずっと友達でいようねって言ってるの」 手をつなぎ合った幼い少女たちの笑顔は花がほころぶようで、先生は目を細めました。 そうして二人は毎日くたくたになるまで遊びましたが、たんぽぽの花がすっかり綿毛に変わり、れんげが田んぼにすき込まれるころ、イチカちゃんは病気になって起き上がれなくなってしまいました。
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