for o'clock -黄昏-

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 悪い子である私は秋が好きだ。秋の日は釣瓶落としと言われる程、とにかく日が暮れるのが早い。この世の全ての生命の約8割が太陽という偉大なる存在に感謝し、恩恵を受けて生きている。けれども、残りの2割はその恩恵が無いと生きていけないにも関わらず日が沈まないとその生命力を発揮できないというジレンマを抱えた不届き者なのだ。そう、私も。この男も。そして、不名誉だろうけどこの花も… 「う…うぅん。はぁ、はうっ。」  食欲の秋。芸術の秋。スポーツの秋…。秋は何をするにも活力溢れる季節で大変素晴らしいけど、生物にとって一番大事な季節でもあることを誰一人として公言しないのことに疑問を抱いているのは私だけなのだろうか。やっと地獄の様な夏の暑さが静まり、冬の寒さが間近に控えているこの季節。人肌恋しくなるのは私だけじゃないはずなのに、私達以外誰もいないとこを見ると、今も昔も皆暗くなったらお家に帰るいい子なんだなと思う。 「あ…ああぁ。いい、痛い…もっと優しく…」 「おい!!声を出すなって何度も言ってるだろ。誰かに見られたらどうすんだよ。次、声出したらその首絞めるからな。」  男の撞木が電光石火の如く人気のない公園にパンパンと軽い晩鐘を響かせる。勢いよく落ちていく夕日に合わせる様に行き急ぐそれは、愛の欠片もない交尾そのものだった。自分から誘惑したあげく、毎度の如く身も心も硬い凶器でズタボロにされる私を癒してくれるのは、柔らかい香りを醸し出すこの花だけだ。 「あぁ…もうだめっ。イっ…あぁ…まだ、なのに…」    あと少しで何とか達せそうだという直前で、お腹の奥からどくどくと規則的な振動が響いて、微かに熱くなっていく。この男も私を置いてきぼりにして、勝手にイッてしまったようだ。その上コイツは精を出せた悦に浸る間もなく、勢いよく凶器を私から乱暴に引き抜き、慌ててゴムを外すと草むらに投げ捨て、ズボンの中に隠蔽した。溜まりに溜まった透明の潮が、勢いに乗っかりポタポタとこぼれ落ちるが、いつもの様に地面に生えた草が優しく受け止め吸い込んでいった。 「ったく。長いんだよ、イクならさっさとイケよ!!お前みたいなビッチは何もしなくても大丈夫だよな。じゃあな!!」  そう吐き捨てると、男は足早にその場を去っていった。暗闇一歩手前の明るさの中で、私はキスはおろかケアもせずに去っていく畜生の見えない背中を睨みつける。 「…チッ。同じ獣のくせに。」  しかし、今日の男のはまた一際大きかったな。お陰でズキズキ痛んで、しばらく立てそうにない。最近頻繁に営む様になったせいか、緩くなってきた気がする。これだけ回数を重ねても一向に満たされないとこを見るに、私は本当に淫乱なんだなとつくづく思う。  公園に流れる秋の夜長の涼しげな空気は、火照った私を冷やしてくれ、草花のカーペットはやり終わった後の私の体を優しく包んでくれる。目の前の花は相変わらず優しい香りを醸し続け、興奮した私を癒してくれる。起き上がれない私は、しばしその至福の一時に身を任せることにした。 「本当に、私を大事にしてくれるのは君だけだね。」  いつの頃からか、私は所謂青姦というものに固執するようになった。誰かに見られるかもしれない緊迫感がいいとか自然と一体になった感じがいいとかよく聞くけど、私の場合理由はよく分からなかった。ただ何となくホテルとかで普通にやるより満たされる様な気がして心地よい。それだけだった。  性に目覚めてから今日に至るまで何十人という男を誘惑し、交わってきた。これでも最初は誰の目にも付かない自宅でやることが多かった。私の両親は仕事が忙しく、二人とも不在が多いため男を連れ込み放題だった。いつになっても家に誰もいない寂しさに耐えられなかったのか、それとも性の衝動が抑えられず却って好都合だと考えていたのか、今となってはもう思い出せない。  とある夏の夕暮れ時。待ち合わせ場所から自宅に連れ込む途中にある公園で、ふと心地よい香りを感じた。匂いを頼りに辿ると、人目に付かない花壇の隅に1メートル近くある草丈がある黄、白、ピンクと色とりどりの花が咲き乱れる植物があった。目の前には『オシロイバナ』と書かれたネームプレートが地面に刺さっており、どういう訳かその花達に囲まれる様に真ん中だけポッカリとスペースが空いていた。  この花に出逢ってから、私はこの場所で事を致す様になった。花に魅了され、ここでしたいという欲求が生じたというのもあるけど、外から姿が見えない程鬱蒼としている上に人が寄りにくい隅にあることも相まって、青姦をするには悪くない場所だった。どうも夕暮れから夜にかけて咲く花らしく、昼に行ってもただの緑の塊がそこにあるだけだった。その点もまるで私みたいで好感が持てた。  ここですると、何故か男は今日みたいに乱暴に私を扱う。一応公然猥褻罪にあたる行為だし、同意はする癖に人に見られたくないという思いが皆強いためか、さっさと済ませたいのだろう。あんまりにも激しく動くから、二人分の熱が草いきれみたいになって、花の香りと混ざってロウリュウサウナみたいな空間が出来上がる。セックス自体は気持ちいいと思ったことは無いけど、香りが一層強まるこの時が、私は何より心地よくて好きだった。  痛みが大分引いてきて、もう起き上がれそうだ。夜の帳が下り、秋とはいえど流石に肌寒くなってくる時期になってきた。この寒さではこの行為に及ぶのももう限界だろうなと思った。冬になると寒いからと言って服を脱ぎたがらないので、プレイに応じてくれなくなるとネットに書いてあった。可憐な花を咲かせるこのオシロイバナとやらも、流石に冬には枯れてしまうだろう。私から漏れだす愛液が栄養になっているのか、まだ生き生きとしているけど、この花が無いのであればここでする理由はない。 「寂しいけれど、しばらくお別れだね。今までありがとう。また来年会おうね。」  次に会えるのは早くて夏かなぁ。でも暑いからやっぱり秋がいいな。等と考えながら私は別れを惜しみつつその場を去ろうとした。
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