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階段を上がってくる音が聞こえたかと思うと、私の部屋のドアが開いた。
「まーゆー。お父さんと神社に行かないか?」
「行かない」
「そんなこと言わずに。な?」
お願い! と、拝むようにして私を見つめる父親に深い溜息を吐いた。
最近、神社巡りに目覚めた父親は、休みになるたびこのあたりの神社を訪れている。別にそれは父親の勝手だし好きにしたらいい。けど、一人で行くのが寂しいからと毎度毎度、私を誘うのはやめてほしい。私は神社に興味はないのだから。
「行かない」
「そんなー。今日行くところは絶対に麻優も気に入ると思うんだ」
「……どういう意味?」
思わず聞き返した私を、父親は嬉しそうに顔を輝かせた。
「実は、そこ恋守りの聖地と言われていて!」
どんな聖地なのだか……。
「恋愛に効くお守りを貰えるんだって。どう? 気になってきた?」
と、言われても……。そもそも好きな人もいない私が恋守りを貰ったところでどうなるというのだろうか。
「興味ない」
「ええー。もう麻優も高校生だろ? 好きな人の一人や二人……」
「いない。それに、娘に好きな人なんていたら、普通の父親は悲しがるんじゃないの?」
「なんで?」
キョトンとした顔で、父親は首を傾げた。
「だって、お父さんが今の麻優の年にはもうお母さんに一目ぼれして、大好きになって、ずっと一緒にいたいって思っていたよ? だから、麻優に好きな人がいたって不思議じゃないだろう?」
……そんなもんなのだろうか。一目惚れ、というのが私にはピンとこないけれど、まあ二人がそうだというのは否定しない。確か母親も、父親に一目惚れだったと言っていたし……。
「鐘がね、鳴るんだよ?」
「鐘? 何、神社の話?」
「違う、違う。一目ぼれすると、頭の中で、リーンゴーンって鐘が鳴り響くの」
「…………」
自分の父親ながら、メルヘンな頭にこれはないわと思わされる。でも、そんな私に父親は「ふふっ」と笑うと「準備できたら下に降りてきてね」なんて言って部屋を出て行ってしまった。
「ちょ、私行くなんて……。あああ、もう!」
結局、ほとんど手を付けていなかった問題集を閉じると、私は父親のあとを追いかけるように部屋を出た。
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