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4、ラズワードの双子の妹セレス
ラズワードは双子である。
妹のセレスは、最近はおしゃれに興味を持ちだして、長い金髪を複雑に結んだりするのに凝っている。
兄の贔屓目に見ても、非常に美しいと思う。
16になったときぐらいから、中原の美姫にその名が挙げられるようになり、それ以来方々から縁談希望者は後を絶たない。
ふたり並んだその姿は、ラブラドのふた粒真珠とも例えられていた。
金色の髪、紫がかったグレーの瞳、ラズは自分と良く似た顔をした妹が大好きである。ラズの瞳はブルーグレーで、ほんの一滴赤みが入った分だけ違っている。
そして、そのたった一滴の、燃え上がる炎の赤い色味のもつ、情熱といったラズには持ち得ない熱さを、妹のセレスは持っていた。
妹のセレスは、負けん気の強さが、その美しさを際立たせていた。
兄のラズワードの方が、男ではあるが花のような優しい雰囲気をもつ。
妹のセレスは剣術も好きなので、音楽や舞踊が好きなラズワードと、レッスンをこっそりと入れ替わったこともある。
レッスン以外にも、小さい頃は妹とよく入れ替わって、お付きの者たちをからかったものだった。
そういうとき、セレスの側はレッスンを一緒にしているジュードにたちまち露見したが、舞踊のセレスのクラスのラズワードは今日は真面目でとっても上手ね!と誉められながら、最後までセレスだと思われ続けたのだった。
そして、今日のセレスは例によって、キラキラとした目をしている。
何かいたずらを思い付いたときの厄介な目である。
捕まってはならないと思うのだが、「お兄さま!」と朗らかに呼び掛けられて、立ち止まり、妹を待ち、笑顔を返してしまう。
こうなったら彼女のペースである。
「今日は、隣国のアズワール王子が来られるの。
ラズお兄さま、わたしの代わりにお相手をしてくださらない?何度もお断りをしているのに、諦めてくれなくて。彼のわたしへの愛を確認しましょう。
入れ替わってもわからなければ、その場でばらして断る口実にできるわ!」
「騙すなんて失礼だろう?」
「愛だの口にされるので確かめるだけよ?
わたしを助けると思って」
全く乗り気はしなかったが、ラズワードは押し負けてしまった。
妹のわがままを許してしまう、妹想いの兄である。
事情を知ったセレスのお付きのサラが手慣れたように髪を結ってくれる。
「綺麗なおぐしですわ!」
と誉めくれるが特にうれしいとも思わない。
髪を鋤くサラの手首には銀の藤の花が刻印されたブレスレットがある。
彼女は奴隷であった。
ふと聞いてみたくなった。
「サラはどうして奴隷なの?」
サラはラズワードの質問にびっくりするが、さらりと答えた。
「両親が難民だったので、仕事を得るために奴隷になりました。
わたしは学校に行かせてもらい、王宮の勤めの職を得ました。
藤の花の印はわたしの誇りですわ!
この王宮に勤めるこの印を持つものは、皆そうです。
ご心配なさらないでください」
サラは、流石、王女付に抜擢されるだけあって、ラズワードの質問の意図を正確に把握している。
「奴隷でも、国民でもなんにも変りはありませんよ。
自分のなりたいものに近づく努力をし続ければ、奴隷であっても大抵の道は開かれます。
少し過酷な状況の者もおりますが、少なくともわたしは幸せです」
にっこりと安心させるようにサラは微笑んだ。
「はい。きれいにアップスタイルができました。
あとは衣装ですね。こちらに、、」
数分後、首元を隠すシンプルドレスに身を包んだ、セレスと入れ変わった姫のラズワードが出来上がったのだった。
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