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彼らは澄んだ夜空に瞬く星とその挿話にすっかり夢中になっていた。
南の冠座の神々しいメリディアナ。力強く輝くアルタイルと寄り添うようなアルシャインは鷲座を創り出す。
ふと気がつくと百の星が織りなす星座が宙に浮かび、彼らはその光景に胸踊った。
「綺麗だね」
「うん。とても」
「ねえ、ラナ。なぜ君は目立たない星ばかり選ぶの?」
「いいかい、マナ。星の煌めきはひとつじゃないんだ。たとえば、そう。この星の記憶を見てごらん」
それは、名も無き小さな星だった。マナが選んだ白鳥座の、一際美しく輝く一等星であるデネブの側で、ラナの選んだ小さな星がちかちかと瞬いている。
「この星はね、貧しくとも心は豊かな星さ。本当の幸福が何かを知っているんだ」
「本当の幸福って?」
ラナは「内緒」と悪戯っぽく答えてから「きっとまわりの星々が輝きを失わないことが、名も無き星にとって幸せなのさ」と呟いた。
「さあ、マナ。もうすぐ朝が来るよ。星たちを太陽の光に連れていってもらおう」
「うん」
大聖堂を染めていた虹の色が、徐々に明度を増してゆく。
ラナとマナは美しき星座を生み出した百の星を連れて、天へと昇った。星々は澄み切った朝の穏やかな光の輪に溶けていった。
螺旋を描きながら、ゆっくり、ゆっくりと。
天使は確かに存在する。
あれは、彼らの合図だろうか。
天に浮かぶ聖母が抱く赤子の側で、柔らかな光が二度、瞬いた。
ー完ー
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