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図書館で読書をしている時
俺は基本的に周りを気にせず読者にひたすら没頭して物語の世界にのめり込んでいる。
だけど、毎日決まった時間に通っていると
自分以外の図書館利用者を覚えられるもので
50代の難しい顔をしたおじさんがPCで作業していたり自分がいつも座っている席の後に
赤本か何かで自習している茶髪の大学生。等同じ時間帯の利用者の顔は覚えている。
同じ時間の利用者の中でもとくに目立っているのが、俺の座っている席から100センチ程離れた椅子に座っている俺と同い年ぐらいの女子だ。
どうして、彼女が目立っているのかというと
彼女は見た目とてつもなく美人なのだが俺の覚えている限りサイコホラーの小説しか読んでいないのだ。
しかも、本を読みながら面白くなったら笑いが堪えられないという図書館利用者としては致命的なタイプな様で、ただでさえビジュアルが良いから視線を引き付けているのに
「ぷっ...!くくくくくっ!」
と静謐な図書館の中で一人だけ笑い声を響かせている。
今日も彼女はサイコホラーの小説を読んで笑いを堪えきれずに口を抑えてピクピクと震えている。
俺は伝奇小説を読みながら。なんとなく気になったから物語の区切りが良い場面に到達する度に視線を目の前の本から女性の方に向ける。
女性は真剣な表情でサイコホラー小説を読んでいるが、何か面白いシーンに突入したのか再び震えだした。
俺はヤバイ奴だと思い視線を小説へと戻した。
ガタッ
誰かが席を立った音だ。
俺はとくに気にせず読書を続けた。
「あの...」
誰かの声がした。
どうやら俺に呼び掛けているらしい
俺は顔を上げる。
目の前に100センチ先にいた女性が立っている。
「あ...。」
近くで見ると本当に綺麗な顔をしている。
じつは読書モデルなんじゃないかと疑うレベルだ。
「しおり、落としましたよ?」
「あ...。」
気づかなかった。
読書に没頭していて小説から落ちた事に気づかなかったらしい
「ありがとうございます。」
俺は御礼を述べしおりを女性から受け取った。
「その小説面白いですよね。」
女性が俺に話し掛ける。
「読んだことあるんですか?」
「5日前ぐらいに借りて家で読みましたよー」
「そうですか。」
僕はぶっきらぼうに返事して
会話は終了したと判断し読書に体制を戻そうとした。
だが、それは女性の一言によって止められた。
「その小説、中々読んでる人見かけないんですよね...友達に話しても知らないって言われちゃうんですよー」
うーんと首を傾げる仕草をする女性
俺は直視してると可愛いと思い赤面してしまいそうだから視線を一生懸命に顔から反らしている。
100センチ先に座っている美人との距離が10センチまで縮まるだけで、こんなにも心拍数が上がってしまうのか...
俺の体も単純だな。
「読み終わったら、感想聞かせて貰ってもいいですか?」
「...え?」
俺は驚きのあまり大きく目を開けて彼女の顔を見た。
「いつも、この時間にきてますよね。
私いつも同じ時間にあの席に座っているから
大体利用者の顔覚えているんですよー」
「そうなんですか。僕も貴方のことは認識してますよ。いつも、あの席に座っていらっしゃるようなので。」
「あ!やっぱり?じゃあ、それ読み終わったら話しかけて下さいね。」
「ほ、本気ですか?」
「はい♪」
どうして見ず知らずの人にそんなことお願いできるのか、俺は美人とはいえこの女性の神経を疑った。
「友達に進めて読んでもらえばいいんじゃないですか?」
こんな美人に自ら話し掛けるなんて真似は俺には怖すぎるから遠回しに他を当たってくれと主張したが
「友達に薦めても読んでくれないんだよねー
それに私が見ている限り、貴方の本の趣味と
私の本の趣味は合いそうだから意見交換したり楽しそうだなーって。」
確かに、俺はサイコミステリーを好んで読むし今読んでいる小説もサイコチックな所を孕んでいる物語だ。
「ダメですか?」
「いや、ダメってわけではないですけど。
お互い顔を見知っていたとはいえ、赤の他人なのに意見を交換しあうのは...ちょっと...」
「じゃあ、付き合います?」
「え!?!?」
思わず大きい声を出してしまった。
「ちょっと声大きいですよー」
しーという人差し指を唇に当てる仕草を女性がした。
お前に言われたくない。
「付き合うって...?」
「恋人になれば貴方も私に抵抗なく話し掛けられますよね?」
確かに、赤の他人では無くなるしハードルは低くなるかもしれないが、順序をはしょりすぎでは無いだろうか...
「どうです?」
「どうですも...」
「私も彼氏いないですし...あ!もしかして
貴方は...」
「い、いませんけど...そういう事を他人に聞くのはデリカシーが無いと言うか...」
「あっ...ごめんなさい!不快にさせちゃいました?」
女性は手を合わせ僕の目の前で謝るポーズを取る。
「いや、そういうわけでは...」
無いのだが。俺の鼓動は訳もわからず速くなっていく。
100センチ前に座っている女性との距離が10センチまで縮められ付き合わないか?と提案されて鼓動が速くならない人類が存在するのだろうか、否存在しないだろう。
「私の事が嫌なら降ってもいいですから!
どうか、その小説の意見だけは交換させてください!本当に!このとーり!」
女性は俺に祈るポーズをしてお願いする。
「そこまで言うのなら...」
俺は頷く。
意見を交換するだけだ。何でも無いだろう。
それに、この女性はきっと大学か何かでモテるだろうから、俺と付き合った処で秒速で忘れられるだろう。
「じゃあ、読み終わったら教えてくださいね?私はいつもあの席に座っているので。
それでは、その時にまた。」
そう言い残し女性は座っている席に戻り読書を再開した。
俺はしばらく読書を再開できず。100センチ先の席に座る女性をただただ見ていた。
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