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図書恋愛ー起ー
俺は自宅へと帰ると自分の部屋がある二階へと上がろうと階段を登ろうとしたら上から姉が降りてきた。
「おかえりー」
「うん」
俺は頷きだけ返した。
「じゃ。」
姉は一言だけ言って階段を駆け下り玄関まで行き靴を履き替えてどこかへと出掛けに行った。
姉はパッと見だがラフな服装をしていたから
きっと友達と遊びにでも行ったのだろう。
少し急いでいた様子から、また寝過ごしたんだな...と予想できた。
何故「また」なのかというと、姉は寝坊の常習犯なのだ。家族で旅行に出掛けた時にギリギリまで起きなかったり、休み明けの日に寝坊している姉を友達が迎えに来る事が屡々あるくらいだ。
そんな寝坊して足早にどこかに出掛けて行った姉の事より俺はある一冊の本が気になっていた。俺が今日買ってきた本では無く。
図書館で俺から100センチ近くで読書していたあの女性、今日偶然本屋で顔を合わせたあの女性が僕に薦めてきた本だ。
読書は好きなのだが、バイトや高校の課題で
忙しかったりして本を読む機会が無かったのだ。とはいえ、今日はさっき本屋で受け取った本を読む気でいたのだが、図書館の女性と本屋で顔を合わせた時に女性から借りた本に
少し興味を持った。借りた本をそっちのけで
予約した本を受取りに行ったのは女性から借りた本を読むのを後廻しにしようと思っていただけである。借りた本の存在を忘れていたわけでは無いので誤解なきそう。
...というのは嘘で、俺は今の今まで借りた本の事を予約した本を受け取れる高揚感に気がとられて、すっかり忘れていてさっき女性と顔を合わせた瞬間に思い出したのだ。
その時、借りた本を読まずに他の本を読むのは赤の他人とは言え失礼かもだな。と後ろめたい気持ちになった俺は急遽今日の予定を変更して本屋で受け取った本より先に借りた本を読むと決めた。部屋に入ってさっそく本棚に置いてある一冊の本を取り出した。
杖に座り読書をする姿勢を整える。
表紙には【ストロベリークレイジー】
というタイトルがあり
口に苺を加えた女性が血の涙を流している
なんとも怪奇な表紙になっている。
俺はページを開き図書館の女性から借りた本を読み進める。一ページめくり、また一ページめくり、更にまた一ページと俺はぴらぴらとページをめくり、怪奇なサイコホラー本を読み進めていく。そして、気が付くと僕は
最後まで読み終えていた。
「すごいな...これ...」
俺の口から不意に溜め息が出る。
これは、本の内容が悪く不満に思った溜め息では無い、あまりにも良すぎて出た満足感の溜め息だ。
謎が多い展開から、だんだんと伏線が回収されて行き最終的に衝撃のラストを迎える。
内容を簡単に言うと、そんな感じだ。
登場人物の引き立て方も上手くてバランスの良い配置になっていて何より残酷なシーンの描写が芸術的で、この作者が一番狂ってるのでは無いかと思うような文章の綴り方。その
表現力世界観に魅了され、僕は読み進める目を止めることが出来なかった。
正直に言うと、図書館でサイコホラーの本を読みながら笑っていた女性から貸された本だ。ただグロいだけの、あまり中身がない面白さの欠片の無い本だろうと舐めきっていたが、実際読書したあとの僕の心情は180渡変わっていた。
もしかして、あの女性は本選びのセンスが良いのではないだろうか...?
俺は少しばかり思ったが、まだ一冊目だし
決めつけるのは早いとも思った、
時計をみると夜中の1時に到達している事に気づき俺は明日学校があるので風呂に直行してシャワーを浴び、就寝の準備を整えてから速攻で床についた。
学校に登校し、普段通り授業を受けてから僕は図書館へと向かった、
本を選んでから、いつも通りの席に座り読書を始めた。
今日はあの女性はまだ来ていないらしくて
いつも座ってる俺が座っている席から100センチの距離にある席には別の人が座っている。
しかし、俺には関係のない事だ。
もし、今日は来なくても、僕にとっては
正直どうでもよいと思う。彼女でもないし
学校の先輩後輩でもない。
ただ、図書館で出会っただけの関係、距離もきっと100センチからは縮まらないだろう。
...と思いつつも僕は昨日読み終えた本の感想を、あの女性に話したくてウズウズしているというのが正直な気持ちだ。
まるで彼氏みたいに待つのも変だから僕は
目の前の本を読むのに集中する。
区切りの良い所まで読み進めてから僕は本から視線をはずした。すると、いつもの席では無いが、俺の席から50センチ程離れた席に
あの女性が座っている。
僕はちらりと女性を見ると女性は僕の視線に気づいたのか彼女の方から僕に近づいてきた。
女性「昨日はどうもー」
女性は僕に近くに来るやペコリと頭を下げた。
「ど、どうも。」
俺も連れて頭を下げる。
女性「私が貸した本読んでくれた?いや、昨日は買ってた本を読んだのかな...?そ、そうだよね。」
「昨日全部読み終わりましたよ。貴女に貸して貰った本。」
女性「え?」
女性は目をパチクリさせる、
女性「あの...ちょっと待って?あれ1日で読んだの?、あ、あの、横に座っていいですか?」
「あ、どうぞ。」
俺はすぐ横の空席を指差した。
女性「で、本当に読んだの?どうだった?面白かった?」
「えぇ、思っていた以上でした。凄惨な描写はショッキングで主人公のケイトが序盤は何を考えてるのがわからなく謎だらけで村人も怪しいし誰が黒幕でもおかしくないぐらい
混沌でスリル満点で、それでいて、先をどんどん読み進めたくなる。作者が作る世界に引き込まれる。素敵な本でしたよ。」
俺はありのままの感想を口にした。
女性「えへへ...自分の好きな本を褒められると自分も褒められているみたいで照れるなぁ、」
女性は恥ずかしそうに頬をかく。
彼女を褒めたわけではないのだが、確かに彼女のセンスは良いと思う。
「勿論、凄かったのは本ですが、確かにちょっと貴女の本選びのセンスは良いなとは思いましたね。」
女性「ふふーん!でしょー?」
俺の言葉にご満悦そうに鼻を鳴らす女性。
この女性はとてもプラス思考なんだなと思いながら鞄から借りた本を取り出し女性に渡す。
「これ、貴女にお返しします。」
女性「あのさ、貴女じゃなくて名前で呼んでよ。」
「え?」
女性「ほら、素敵な本を貸してあげたんだから名前ぐらい教えてよーそしたら私も私の名前君に教えるから、良いでしょ?」
なんだ、その取引は・・・。
まぁ、名前ぐらい教えても良いだろうと思い俺は自分の名前を女性に言う。
「海堂です。」
女性「カイドウ?」
女性は俺が発した名字に何か引っ掛かったのか首を傾ける。
女性「下の名前は?」
「。。。祐介です。」
何で下の名前まで教えなくてはならないのかな?と思ったが聞かれたからそのまま答えた。
女性「もしかして、君。おねえさんっている?」
女性は僕の下の名前を聞いた後続けて質問した。しかし、名前だけじゃなくて家族関係まで聞かれるのは変だと思った僕は答えるのを躊躇い
「何でそんなこと答えなくちゃいけないんたですか?」
と女性に聞き返した。
きっと何かしらの理由があるから聞いているのだろう。それに、何故姉に絞って聞いてきたのだろうか。
俺はそれを聞くことも含めて彼女に聞き返した。
女性「えっと...大学のサークルの友達にね?海堂って名字の子がいるんだけど...」
「海堂...」
俺は彼女が発した自分の名前と同じ名前を口にする。
女性「海堂って珍しい名字なかなか見かけないじゃない?だから、祐介くんのおねえさんなんじゃないのかなーって思ったんだけど
違う?」
なるほど、だから姉に絞って聞いたのか。
でも、人違いかもしれない、海堂という苗字は確かに珍しいと聞くが、もしかしたら自分の姉とは別の全く別の海堂という女性なのかもしれないし...
「その友達の下の名前は何て言いますか?」
女性「えーとね、海堂舞ちゃんだよ。みんなね、まいやんって読んでる。」
海堂舞。その名前は俺の姉の名前と全く同じである。
女性「つーかさ、まいやんって寝ぼすけだよね!
家でもずっと寝てるの?」
彼女の言葉で海堂舞という自分の姉と同姓同名の彼女の友人が俺の姉と全くの同一人物であることが確定した。
ほぼ会ったばかりの女性が自分の姉の知り合いだったなんて...なんて世界は狭いのだろう。
「寝坊は多いですね。いつも寝てるわけでは無いと思いますが...」
女性「なるほどねぇ...昨日もさ、ずっと寝てたでしょ?昨日祐介くんと別れてから20分後くらいに電話掛けたら「まだ家」って、あの子いつも遅れて来るんだから~」
女性は「むすぅ」と、わざとらしく頬を膨らませる。
「えっと...姉が失礼しました。」
俺は彼女が本気で怒ってはいないと分かっているが、とりあえず頭を下げる。
女性「まぁ、良いんだけどねー不思議ちゃんで何か憎めないし。あ、そういえば君。改めて見ると雰囲気似てるね!まいやんと。」
「そうですか?」
女性「うん!なんというか、口元が似てるわね」
女性はじろじろと俺の顔を観察する。
少し恥ずかしくなったら僕は視線を読んでいた小説に戻して
女性「もう良いでしょう。というか、何で僕のフルネームと姉の事まで貴女に話さなくちゃならなかったんですか。」
この話はおしまい!というようにボヤいた。
女性はクスッと笑い
女性「だって、私が質問したら、すんなりと答えてくれるからじゃない。答えたくないのなら答えなくても良かったのよ?」
自分の名前と姉の事を聞かれた事は別に良い自分が気にしているのは、今のこの状況だ。
一昨日まで100センチメートル先にいた女性の顔がすぐ目の前にある。
俺の顔は何故か火照っている。
女性「顔、赤いよ?熱?」
俺の顔が赤くなっている事に気づいた彼女は俺の容態を心配してくれた。
「ほ、ほら、貴方も読んでいる本があるんじゃないですか?、もうすぐ閉館の時間になってしまいますよ。」
俺は彼女の興味が自分から外れるように
彼女が読んでいる本を指差しながら言う。
女性「あー、この本ね。そういえば貸した本と同じ作者なんだよ。」
「そうなんですか?」
不意に俺は視線を本から彼女の顔へと向けた。
女性「うん!読みたい?」
読みたい。凄く読みたいが一昨日に本を借りたばかりだし、まだ本を返してもいないのに
借りるのは申し訳ないと思った。
「今度書店で探してみます。」
女性「えー貸してあげるよ。これ、私の私物だからさ」
「そうなんですか。」
女性「私が貸した本と交換ってのはどう?今は持ってないでしょ?」
女性のこの言葉で思い出した僕は鞄の中に手を突っ込みピンクのカバーの本を取り出して
「持ってきてますよ。」
女性「本当だー!ありがと~う!!」
彼女は手を出した。
俺はピンクのカバーの本を彼女に渡した。
女性「じゃあ、後は私が読み終えればいいだけね。大丈夫!ちゃんと明日までには貸せると思うから!」
出来れば貸してくれるのなら今貸して欲しい。明日になるのなら買った方が早いと思うし。作者もそれなりに有名だから、置いてない書店は無いと思う。
とはいえ、貸してくれる事はありがたいから
早く貸してなんて言わないが...
「ゆっくり読んで良いですよ。俺は俺で買いますから」
女性「えー...私が貸したいんだけどなー!
本屋の買って読んだら君あっという間に読んでしまいそうじゃない?そしたら私より先に内容を知っちゃいそうだわ。それは嫌なの
先に私が内容を知ってから貸したいの!」
なんでそんな所に意地を貼るんだ?この人は
まぁ、確かに彼女の言う通り、書店で見つけたら1日で読破するつもりでいた。
女性「明日には貸すから、それまでに買ったりしないでね?」
「それなら、俺、待ちますよ。無理に早く読もうとなんてしないでくださいね?読書のスピードは人それぞれですから」
あまり早く読みすぎて本の世界観を堪能しないで読み終えるのは良くないと思う。
本当はすぐにでも読みたいが、せっかくの好意を無下にするのも何か悪い気がして彼女が読み終えるまで待つと決めた。
その間は昨日購入した本を読むことにしよう。
女性「お、良いこと言うねー君。」
「そんなことはないと思いますよ。」
女性「ふふっ謙遜しなくてもいいんだよ。
私たち友達じゃない?」
「え、いつから僕たち友達になったんですか?」
女性「ひっどーい!本を貸した時から友達じゃない!」
なるほど、本を代償に僕は友達にされたわけですか。そうですか。
そして、声がでかい。
俺は小さい声で
「声大きいっす」
と囁くと女性は顔を手で覆い
女性「ごめん。」
謝った。女性は俺から少し離れて
女性「じゃあ、席に戻るね。絶対に待っててよ?絶対だからね!」
釘を指すように俺の顔に指を指しながら彼女は言う
どうして、そんなにも自分が先に内容を知りたいらしい、きっとネタバレされるのが嫌なのかもしれない。それなら、気持ちはなんとなく俺にも分かる。
そして席に着くと思い出したように
彼女はハッという顔になり
女性「私の名前言ってなかったね?」
「あ。」
そういえば、そうだ。
女性「私ね、吉田みゆき。よろしくね。」
名前を名乗るとニコッと笑い吉田と名乗る女性は読書に戻った。
俺も彼女と同じく目の前の小説を読み進める
「~♪~♪~♪~♪」
閉館の5分前を知らせる音楽が館内に鳴り響いた。
もう、こんな時間なのか...小説を途中まで読み進められたから良いが随分と集中して読書していたらしい1時間が1分に思えるぐらい俺は小説の世界にのめり込んでいたようだ。
帰り支度をして、席を立とうとすると、何者かがポンポンと僕の肩を叩いた。
振り向くと隣に座っている吉田深雪と名乗った女性が手に持つ小説を俺に見せて
吉田さん「ねぇ、読み終わったよ。」
笑顔で言った。
吉田さん「ふぅ...結構集中して読めたな~面白かったよ!はいっ」
女性は俺に小説を渡す、俺は受け取り彼女の顔を見てから
「本当に読み終えたんですか?」
吉田さん「読み終えたよ~何?疑ってます?」
「だって、一時間で読み終えられるような文量じゃないでしょ、この分厚さ」
吉田さん「ふふん♪私、一度集中したらこれぐらい楽勝で読めるんだなー」
吉田さんはドヤ顔を俺に見せつける。
「そっか、それは失礼しました。」
吉田さん「うん!わかったなら宜しい!」
吉田さん「まぁ?途中まで三日前ぐらいから読み進めていたから、今日読んだのは後編の方だけどねー」
そんなこったろうとは思った...
とはいえ、この文量の小説は読書好きじゃないと読み終えられないだろう。ということは
この女性は図書館で笑う変人ではあるが、本を読むのは本当に得意らしい。
俺は鞄から一冊の小説を出して彼女に渡した。
吉田さん「これは?」
「俺が持ち歩いてる本です。好きですから、この小説。何度も読み返すんですよ。」
吉田さん「で、なんで私に?」
「借りてばっかも何か悪いと思って。貴方が好きな本のジャンルとは違うかもしれないですが、良ければ」
吉田さんは俺が手渡した小説を数秒眺めてから
吉田さん「ありがとう!嬉しい!」
俺に満面の笑みを向けた。その笑みは気のせいか今までの笑みとは違う特別な笑みだと僕は心なしか感じた。
吉田さんは小説をバッグにしまうと
吉田さん「もう、閉まっちゃうよ!本借りるなら急いで受付に行かないと時間切れになっちゃうからねー。じゃっ」
ばいばいと手を降って女性は席を立ち帰って行った。
俺は途中まで読み進めていた本を受付で借りてから図書館をでた。
「わっ!!!???」
自動ドアを出ると隣に座っていた女性が立っている。
「か、帰ったんじゃないすか...」
吉田さん「あ、びっくりした?ごめーん。」
吉田さん「あのさ、駅まで一緒に帰らない?」
「は?何でまた?」
俺は道端で狼でも見たような唖然とした顔を女性に向けながら聞いた。
吉田さん「もう暗いし、一人で女の子が夜道を歩くのはあぶないでしょ?だから、付き添ってよ。」
「いや、年下の俺が付き添っても...」
吉田さん「良いから!年上の言うことはちゃんと聞く!」
「はぁ...」
吉田さん「わかったなら、行こっか。」
女性は歩き出して僕も彼女に着いていく様に歩を進めた。
こんな事は初めてだから、俺は少しドキドキしている。この女性には、彼氏がいるだろうに俺と二人だけで帰ってしまって大丈夫なのだろうか?少し心配になりながらも、一緒に帰るだけだ。途中で別れるだろうし、何も問題は無いだろう。そう自分にいい気かさて気持ちを落ち着かせた。
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