図書恋愛ー承ー

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図書恋愛ー承ー

女性が前を歩き俺も後から着いて行く 風に吹かれて女性の服から甘い香りが漂う。 図書館ではあまり感じはしなかったが、彼女から女性らしい甘い臭いを感じ取ってしまった俺は変な気を起こさないように、なるべく 彼女に近づき過ぎないように離れて歩く。 彼女が俺の方に振り向く、揺れる髪から更に甘い香りが靡かれる。 「君さ、小説どんなジャンルが好きなの?」 「え...あー...伝奇小説とか好きですね。」 完全に脳が彼女の甘い香りに当てられて思考停止していた僕は少し反応が遅れて答えた。 「ふーん。あと、何でそんな私から距離をおいてるの?」 「それは...」 これ以上近づくと僕の精神が持ちそうにないからだ。だが、それを直接言うのは何か気が引けるから 「男女で夜道を歩いていたら、周りからはそういう目で見られちゃいますから、あえて距離を置いてるんです。」 少し誤魔化して距離を置いてるワケを話す。 女性が僕に半歩近づき俺の顔を除き混む。 「そういう目って?」 いや、近い近い。こっちは自分が間違いを犯さないように精神を制御しようと必死なのに、その必死の努力を水の泡にするかのようなあざとさだ。きっとこの女性は大学で小悪魔と表されている事間違いないだろう。 「ですから...」 「カップルみたいだって?」 俺は一瞬立ち止まり隣を歩く女性の顔を見る。 「あはははっ!わかりやすい反応!そうだねーこんな暗い時間に男女で道を歩いてたら、なんかデートしてるカップル見たいだよね~」 「...俺、先に帰って良いですか?」 女性の前をスタスタと歩く俺。女性は少し早足になり 「あっ、待って待って!ごめんごめん!一緒に帰ろ?ね?好きな本のジャンルの話してた途中だったじゃん!ね!!」 「カップルでもないのに、どうして一緒に帰りたがるんですか?僕は別に良いですけど。 彼氏さんとかに見つかったらマズくないっすか?」 「彼氏ー?いないよ?私。」 「えっ!??」 俺はついつい大きな声を出して驚きの表情を隣の女性に披露した。 「びっくりした...そんな驚いた?」 「いや...モテそうな顔していらっしゃるのに 彼氏いないなんて以外だなーと。」 「へぇ、私の顔の事モテそうな顔って思ってるんだ~。」 再び女性は俺の顔を除き込み俺は目を合わせまいと視線を反らす。 「でもね、君。活字が好きなのなら見た目より他の所にも目を向けるべきじゃないのかな?」 「それは...そうですけど...」 確かに、この女性の言う通りかもしれない。 でも、彼女の顔が綺麗で美人顔なのも事実である。 「まぁ、私モテるけどね~」 「あー、やっぱり。」 「ちょっと!普通にナットク見たいな顔しない!恥ずかしくなるでしょ!」 自分から言っといて恥ずかしいとか面倒くさい人だな...と俺は心の中で思っている。 「モテると言っても何人かに告白されたってだけで、私、デートした事は一度も無いんだ。」 「えっ...どうしてですか?」 「だって彼氏出来てデートするようになったら自由な時間が無くなりそうじゃん?それこそ図書館に行って読書する時間がさ。」 「声掛けてくれた人に読書好きな人とかいないんですか?」 「うーん...みんなカラオケ行ってワイワイ 遊園地行ってワイワイするのが好きそうな人ばっかだったからさ~一回ぐらいファミレスでお茶してすぐにフっちゃうんだよね~」 いや、デートしてるじゃん。と俺は思ったが口には出さない。 女性は何かを思い出したように手を叩き。 「それより好きな本のジャンルの話よね。 脱線しすぎて忘れそうになっちゃった! えーと...伝奇小説が好きなんだっけ?」 「そうですよ。」 俺は頷く。 「私も好きだよー、伝奇小説面白いよね。グロテスクな表現とかさ」 「ぐ、グロテスクが好きなんですか?」 えぇ...とドン引きするような顔を向ける。 「違うよ~猟奇シーンがシュールでつい笑っちゃうの!てゆーか、笑うでしょ?サイコミステリー小説の猟奇的なシーン!シュールな描写がさ!」 「いや、笑わないっすよ。サイコミステリー小説で笑う人今までの人生で一度も巡りあったことないです。しかも図書館で...はっきり言って怪しいですよ。」 「やっぱりそっかぁ...友達に聞いたら同じ答えだった。まず、ホラー小説で笑っちゃう気持ちが理解できないし、しかも図書館で笑っちゃうって完全に危ない人だよ。やめた方がいいよ。ってめっちゃ言われたもん。」 それは、そうだろう。図書館でホラー小説を見て笑う女性とか、それこそホラーだ。 「でも、サイコ小説が面白いのはわかるでしょ?サイコ系とか好きそうじゃん。」 「まぁ、昨日読んだ小説普通に面白かったですよ。」 「でしょ~?あれは名作だよねー。」 「作家も有名な人ですからねー。」 「そうなの?」 「え?知らなかったんですか?」 「うん、私あまり作家さんとか気にしないんだ。」 「結構有名な作者さんですよ。伝奇小説も書いてますし。」 「伝奇小説で好きな作家とかいるの?」 女性に問われ俺は少し考える仕草を取る。 「いますけど。知らないと思いますよ。」 「え~教えてよ~」 俺はある事に気づき立ち止まる。 「駅着きましたよ。」 「あ、ほんとだ。」 お互い会話に気を取られていて、いつのまにか駅に到着していることにお互い気づいた。 「ここからは別方向?」 「俺は北口です。」 「私は南口のバスから帰るから、ここでお別れだね。」 「お別れってデート終わりの彼女みたいな言い方やめてくださいよ。」 「ん?私が彼女だとイヤ?」 「なんというか...勿体ないと思います。俺には貴女が彼女なんて...」 彼女に顔を除き込まれ俺は顔を反らす。 顔が近づく度に顔の温度が上昇してゆく。 「本当にわかりやすいな~祐介君は。」 名前を呼ばれると更に恥ずかしくなり顔が真っ赤になる。この赤面している顔を見られている事も恥ずかしくてつい顔を手で覆いたくなる。 「そうだ。祐介くん。明日も図書館来る?」 「行くと思いますけど。」 「明日、図書館にあるおすすめの小説教えてよ。読んでみるからさ。」 「いいっすよ。」 俺はこれ以上顔を合わせ続けると顔から湯気が出そうだから短く応じた。 「うん!じゃあ、また明日。祐介くん。」 女性は手を降り南口のバスターミナルまで歩いて行った。 その女性と別れた後も彼女の髪と服の香りが頭を駆け巡り俺の鼓動は家に帰ってからも波を打ち続けていた。
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