百舌と早贄

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ロクとタツミは同じ神に仕える、神の使い、すなわち神使である。 ある日、神はロクとタツミを呼び寄せ、一つ頼み事がある、と仰せになられた。 なんでも、人間からの供え物がなかなか美味しくて、ついつい調子に乗ってしまったらしい。 「いやぁ……実に、実に良い酒だったんだよね。スッキリと飲み口が爽やかで、かつコクもあり……、本当に、私好みの良い酒だった」 恍惚の表情で酒の感想を語る神をタツミはじとりと見やり、話の続きを促す。 一方、ロクは終始穏やかで品のよい口元のまま、「調子に乗って、何をしてしまわれたのですか?」と神にお伺いした。温厚そうな見た目に反して、「何を」の部分の語調がいささか強い気がするが、それも致し方ないことであろう。とっとと本題に入れ、という話である。 神使からの圧を感じたのか否かは定かではないが、神は話を続ける。 「……こんなに良いものをね、供えてもらったからにはね、ここは神として一言お告げぐらいしてやろう、と思ったわけ。それで、その人間の夢に出てみたんだよ」 「それで?そいつの夢で今度は何をやらかしたって言うんですかい」 「めちゃくちゃ無理なお願いされたのに、いいよって言っちゃった」 思わず「バカじゃねぇの」と口走りそうになったが、タツミはグッとその言葉を抑え、代わりに大きなため息を漏らした。 「なんかぁ、その人の娘さんが子宝に恵まれてないみたいでさ。『頼むから娘に男の子を』って言われて、首を横には振りづらくてね……。でも、それは絶対私じゃ叶えるの無理な類のやつだなってわかってたから、人間があんま達成できなそうな条件つけといたの!だから大丈夫だろうと思ってたんだけどさ」 「だけど、それが達成されそうで困ってるってことか?」 「おっしゃる通りで」 引くに引けなかった。本当にすまないと思っている。と神は仰せになったが、反省なぞしていないことを二人は知っている。こういう事案--つまり、神がその時の気分や神としての矜持から、やたらめったら人間の願いや祈りを聞き入れて、叶えられなさそうになってから騒ぎ出すことであるが--は今までも何度もあり、その度に尻拭いをさせられているからだ。 「要するに、私たちはその人間が条件を達成するのを防いで、貴方が願いを叶える必要がない状態にすればよい、ということでしょうか」 恒例のやりとりだったのか、ロクの対応も手慣れたものとなっている。 「一応、お伺いしたいのですが、その条件とやらは一体どのようなものだったのですか?」 「百人の人間を串刺しにして、天に捧げなさい。って言っちゃった」 「ほう、随分と野蛮な条件だな」 額に手をあて呆れ返っていたタツミだったが、物騒な単語に反応したのか、なんでそんな条件にしたのかと、率直な質問を向ける。 「人間が前に、百舌って鳥が獲物を串刺しにしてるところを見てたことがあって、その時『なんでこんな非道いことをするんだ』ってすっごい引いてたから、人間って串刺しとか苦手なのかなぁ~って思ったんだよね」 「思ったんだよね、じゃねぇんだよ」 「こら、タツミ。いくら面倒ごとを押し付けられたとはいえ、そのような口の利き方は慎みなさい」 神のあまりにいい加減な仕事ぶりに我慢ならず、不満を投げつけるタツミを、ロクは諌めながら「とにかく、その人間の邪魔をして参りますので。人間界へ行く許可申請だけは、よろしくお願い致しますね」とだけ神に告げた。 あぁ、やっとくやっとく!とご機嫌に返事をすると、神は笑みをたたえて仰った。 「ほんと、いつもありがとね。私の威厳を保つためにも、ヨロシク!」
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