百舌と早贄

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太陽がジリジリと天頂から照りつける、暑い午後のことである。 町のちょっとした広場に、大きな人集りができていた。 しかし、人々は広場の中には入らない。否、入れない。広場の周りには柵が張り巡らされており、さらには警備の者も数名配置されていたからだ。 人々が取り囲む広場の中心には、大きな杭のような槍に突き刺さっている一人の男。 心臓のあたりを突かれたまま、見せしめの刑に処されていた。 男は力なく首をもたげており、顔は見えない。 死後、幾らか時間が経過したのか、だらりと垂れ下がった腕には、血が滴り落ちた跡がどす黒くこびりついており、そこかしこに蛆虫や蝿がたかり始めている。 太陽に焼かれるまま、自らの影を重く地に落とすだけであった。 群集はそれを見ては、隣人とヒソヒソと話したり、あまりの悲惨さにしかめ面をしたりしている。 「うわぁ……、こりゃまたひでぇ有り様だな。今度は何をやらかした奴だってんだい」 「なんでも、ただの盗人だったらしいぜ。隣町の金持ちの商家に忍び込んだとかっていう話だが……、ここまですることあるかね」 「これで今月何人目だ?磔にされたの。ちょっと多すぎやしねぇか?」 「本当、最近のお役人さんはどうかしちまってるな」 「バカやろ、大きな声で話すんじゃねぇよ。下手にお偉いさんに陰口叩いてたことが知られてみろ。今度は俺たちが捕まっちまうかもしれねぇだろうが」 「ったく、世間話もできやしねぇな……」 噂話で騒めいているこの群集の中で、冷静な眼差しを処刑された罪人に向ける二人の男がいた。 白い陶器のような肌がひときわ目を引く、背の高い美丈夫がロク。 ボサボサの黒髪から覗く目つきがやたらと悪い男がタツミである。 「やはり、ここで間違いないようですね」 「あぁ。あとはどうやって、奴を止めるかだな」 二人は小声でそう言葉を交わすと、その場を足早に立ち去る。 しかし、タツミが踵を返そうとした時、振り向き様に何かにぶつかった。 ぶつかった衝撃でよろめいたそれは、服装や体格から見るに女だ。だが、その髪は乱れ、何日も容姿の手入れはできていない様子である。 腕には赤子を抱いているが、赤子は泣きもせず、死んでいるかと見紛うほど静かに眠っている。 一応「すまん」と声をかけるも、反応はない。 群集から少し離れた位置にいたこの女は、磔にされた例の男を真っ直ぐに見つめたまま、幾筋もの涙を流していた。 だが、決して嗚咽を漏らさず、ただただ、口を引き締め、子どもを抱える手を強く握るだけだった。 タツミはその様子に気づくと、少しだけ空を仰いでから再び歩み始めた。
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