対10人のゴロツキ

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対10人のゴロツキ

胸糞悪い金持ちじじいだ。何でも思い通りになると思ってやがる。 早速、およそ30メートル先の扉からゴロツキどもが10人現れた。 10人のゴロツキ共は、のこぎり、ナタ、ハンマー、青竜刀、日本刀、ヌンチャク、チェーンソー、槍、クロスボウ、弓矢をそれぞれ持っている。 「てめえらが持ってるのは楽器か?俺の指揮を味わいたいんなら、もっといい楽器をそろえるべきだな」 俺はすかさずスーツの内ポケットから指揮棒を取り出し、かまえる。右手に指揮棒、左腕にはスマホを取り付けて音楽を再生させる。 「お前らには打楽器アンサンブルの名曲『ゲインズボーロー』第3楽章がお似合いだ」 音楽に合わせて指揮棒をふれば、もう俺の世界だ。 飛び道具を持つゴロツキがそれぞれクロスボウと弓矢を放ってきた。俺を殺す気満々なんだな。まったく金の為に殺人なんざ、粋じゃねえ。 俺が指揮棒を振った瞬間に、それぞれの矢は俺からそれて壁にぶつかる。何本も連続で矢をくれても無駄だ。俺の指揮の前にひれふすがいい。 ほら、ハンマーやヌンチャクや槍の奴らも攻撃してくるよ。しかし、無駄だ。俺が指揮棒を振れば、てめえらはお互いを攻撃するんだ。 ハンマーの分銅がヌンチャク男の顔面にあたり、ヌンチャクの先は槍野郎の後頭部にヒットし、槍はハンマー馬鹿の足元にヒットして、仲良くぶっ倒れてくれたよ。 「リズムが悪いな。もっとテンポよく攻撃してこいよ!」 俺がこう言って、のこぎりやナタその他刃物野郎どもが、きちんと攻撃を仕掛けてくる。その単調さは操りやすいんだ。 スマホのスピーカーからの音は貧弱なんだが、ないよりはいい。 スピーカーから流れるシロフォンやドラムのリズムに合わせて、敵さん方がお互いを攻撃しあう。 タタタタタ、タタタタタ、タタ! 俺の指揮棒の動きに合わせてリズムよく、青竜刀も日本刀もお互いを斬りあうんだ。 ばったばったと倒れていき、瞬く間に1人になったのこぎり男は驚愕の表情を浮かべている。 「ああ、聴こえるぜ。びびってる心臓の鼓動がよく聴こえるよ。俺は耳が良いからな」 しなったのこぎりがビヨオオオンと音をたてて、のこぎり野郎の脳天に直撃する。瞬く間にのこぎり野郎は気絶した。 「覚えておけ。のこぎりは楽器としても使われているんだ。きちんと演奏すれば美しい音を奏でる」 俺は、のこぎりを少し叩いて演奏を聴かせてやった。気絶してるこいつらにも音楽を知ってもらいたいからだ。人を殺すよりはよっぽどいい。 俺の指揮ぶりを天井の監視カメラから見下ろしている執事とくそ御主人。執事が驚いている声が聞こえてくる。 「なんということでしょう!刺客があっさりと10人倒されてしまった!あのマエストロが指揮をすると、刺客達がお互いを攻撃したように見えました。彼は人を操ることができるのでしょうか?」 「ほっほっほ。それが奴がマエストロと呼ばれる所以よ。奴は、指揮棒を振ることで、モノから、人の行動までもを自在に操ることができる。百年生きてきたが、なかなかあのような指揮者を見ることはない。これは楽しみじゃな。ほっほっほ」 ああ、うぜえ金持ちの笑い声がフラット気味に聞こえてくる。不快に感じた俺は、天井付近に設置されたスピーカーと監視カメラにハンマーをぶつけて壊してやった。
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