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駅に着き、いつも優海が買い物をするというスーパーへ寄った。材料を買って外に出るなり優海が大きな声を上げる。
「あ、明日の朝ごはん用にパンも買ってこ。美味しいパン屋さんあるねん」
優海はやけにご機嫌。キャストになれたことよっぽど嬉しかったんやな。
「おう、行こ行こ」
パン屋さんでも優海のテンションは上がりっぱなし。俺に丁寧にパンを一個一個、説明をしてくれる。
買い物袋をぶら下げてマンションへ戻ると、マンションの前にスーツ姿の男性が見えた。次の瞬間、俺の足がビタッと止まる。
「徹さん……」
なんで? なんでおるんや、忘れもん? あ、俺の荷物か。そやかて、俺まだそんな吹っ切れてない。
「優海、兄ちゃんちょっと無理。代わりに頼むわ」
「兄ちゃん?」
ジリッと後退した靴底が鳴り、俺は逃げ出そうと体を回転した。
「海斗」
徹さんのハリのある声が大きく響いた途端、体が動かんくなる。
早う逃げな、顔見てまう。そしたら、俺……。
徹さんの気配はあっという間に距離を詰めとって、ガシッと肩を掴まれた。そのままグルンと景色が流れる。両手で痛いほど肩を掴まれた。目の前には徹さんの恐ろしい形相。
「愛してるんだ」
ガツンと響く低音。なんの言い訳もない。不器用で真っ直ぐな言葉。徹さんの一生懸命だけ伝わってくる。
パカッて開いて何も言えん俺の口の代わりに、目から涙がぶわぶわ溢れ出す。徹さんはグッと唇を噛み締め俺の体を引き寄せると、逞しい腕でギュッと抱きしめた。
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