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「なにを仕込みと言ってるのかわからないが、本当にごめん。話していたらいきなりヒロキが運転席側へまたいできたんだよ」
徹さんの顔は真剣そのものやった。酷く狼狽して見えるけど、まだ茶番を続ける気でおるんやろか。
「なだめて手懐けること。もう無理やし。俺は天使な天然やないし。人の趣向のために感情弄ばれるん……ホンマ嫌」
不覚にも涙が頬っぺたを伝うのがわかった。ホンマ嫌やわ。
「そんなにイヤだった?」
徹さんの手が頬を包む。まだやるかと、払い退けよう思った瞬間、ギュッと抱きしめられた。
「そんな風に泣かれると」
「いうときますけど、これは悔し涙で悲しさちゃうし」
「俺は海斗が好きだよ。好きな人に仕込みなんてするわけないだろ?」
好きという単語は徹さんの口から初めて聞いた単語やった。
好き? ……好きってそういう意味やろか。人間的にやろか……。
「ちょっと離して、鼻かみたい」
徹さんは肩を抱いたまま、片手でティッシュを差し出した。
「はい」
ティッシュから数枚引き出し、強引に鼻をかんだる。こんな感じで好きとか聞きたないし。よう考えたら嘘臭さ炸裂やんけ。アホやな。一瞬ほだされかけた。
「……偶然とでも、ゆーてん?」
俺はブンブン鼻をかみながら聞いたった。
「ヒロキが海斗へ俺を紹介したんだろ?」
「そうですよ。相手女やゆーて俺をはめたの……実際はめたんはあんたですけど」
プンスカ怒りに任せ嫌味を吐いたら、徹さんが「ぶっ!」と吹きだした。笑ろてはないけど、俺のムカつきはのうならんからなっ!
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