いつかのむかしばなし

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むかーし、むかしの話をしよう。老人はそう言って微笑んだ。 すこしだけ、聞いてくれるかな? ——彼は、話がしたかっただけだったのだ。今ではそう思う。 「100万円、あげるから。僕とお話ししよう?」 しかし、そう彼が話しかけても、答えてくれる人間は誰もいなかった。 彼は、そう、 ——言うなれば、〝神〟かな? そういう存在に頼まれて、人間と話をしないといけなかったから、無視されるととても困った。 それで、同じ仕事を任された仲間から「質問をすれば、答えてくれるんじゃないかな?」というアドバイスをもらった。そして、それを実行していた。 「100万円あったら、何をしたいですか?」と質問をする。(なぜ彼がお金にこだわるのかというと、人間はお金が好きだというのを前に聞いたことがあったからである) 道行くひとびとは、様々な夢を彼に語ってくれた。 ある人は「世界一周旅行がしたい」と言い、 別の人は「飽きるまでパチンコするんだ」と語り、 また違う人は「彼女と結婚式を挙げたいなぁ」と嬉しそうに話した。 しかし、その人たちも、彼が本当にお金をくれるわけではないことを知ると、すぐに去っていってしまった。 ——なんで、ダメなんだろう? 仲間たちは次々に仕事を終わらせて帰っていく。彼はだんたん孤独になっていった。 「あの場所には気味の悪い少年がいる」 「通る時には気をつけろ。あれはもう手の付けようがない」 「大丈夫だ、あんなの見れば一発で分かる」 いろいろなところで噂が広まり、誰も彼に近づかなくなっていった。 それからしばらく経ったころ。そんな彼に近づいてくる人がいた。仕方なく、いつもしていた質問をする。 「100万円あったら、何をしたいですか?」 「えーっと、ねぇ……………」 「僕のこと、怖くないの?」 「ええ、大丈夫ですよ。そして、私は君ともっと話がしたい。」 「え?」 困惑する彼に、 「私のこと、わからないですか?覚えていませんか?」 ——とりあえずなんでもいい、君と話がしたいんだよ。 そう言った顔には、確かにかつての仲間の、その面影があって。 「ねぇ、君が一番最後だよ。 もうやめよう。 人間として、暮らそうよ。」 その後、その地で彼を見たものは誰もいないという———— とまあ、今日のところはこんなものだろう。 私?私はただの〝傍観者〟だ、気にしないでおいてくれ。 ただひとつ、もし君がいつか似たような子を見つけたら、助けてあげるんだよ。 そう言って、彼はふらり、と消えた。
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