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内容は簡潔なものだった。 一新された人事部より、労基の調査介入後、会社の雇用環境は劇的に改善されたこと。 そこで、これまで辞めてしまった人にもう一度働いてみないかと誘いをかけていること。 「冗談じゃねえ。あんなパワハラハゲ上司のいるとこに誰が行くか」 事務的なワード文書にはもう一枚、手書きの手紙が添えられていた。 人事部の女性社員が書いたものらしい。 『木梨さん(俺)にしてしまったことを後悔して、●●さんは自己都合退職をされました。責任もあり、退職金も半分以下しか受け取ってません』 「罪滅ぼしでもしたつもりかよ」 あのハゲ親父。腹立たしい。 『●●さん、実は木梨さんのツイッターを見ていたみたいです。転職先が見つからないのを心配して、あなたを呼び戻すよう提案されました。自分がいては戻りにくいだろうと辞職されたんです。どうか、●●さんの気持ちも汲んでご一考いただければと思います』 ---は? 俺のツイッターを見ていて、更に俺だと知っていたらしいアカウントは3つ。 1つは少女、1つは隣のパソコンジジイ。 ---じゃあ残る一人は? 労基の職員は、こんなことを言っていなかっただろうか。 ---あなたが自殺するかもしれないからここに行ってみてくれと通報を受けただけです。 「あ、あはははは……」 ……あんのパワハラ親父。 ずっと俺のこと見てやがったのかよ。 オレが死んだらザマァみろじゃねえのかよ。 てめえが会社から出て行くキッカケになった部下だぞ。 「何で……、俺の心配なんかしてんだよ」 しょっちゅう海藻ばっか食って、海藻レシピの飯テロばっか上げやがって。 「あれ以上禿げたくなかったから、食ってただけじゃん」 女子力ない女のダイエットアカウントじゃなかった。 ……瞬間。タイムラインに、新しい海藻アイコンのツイートがポンと現れた。 『無事だったみたいでよかった。何も捨てず、諦めずに頑張ってくれ』 「うるせえよ」 ーーーなんで、最後まで嫌なやつでいてくんねぇんだよ。 自殺なんかされたら自分の責任だとか思いたくなかっただけだろ。 ……汚れたテーブルに、知らずに流れた雫がこぼれ落ちる。 まだ起きっぱなしになっていた履歴書。 落ちた文字が滲んで霞む。 『長所:楽観的なこと。落ち込んでもすぐ立ち直ること』 「せっかく100個目が達成できると思ったのによ』 100個目に捨てようとしたのは、ワカメのアイコンのフォロワーだった。 でも、ブロックもリムーブもできないまま。 タグチャレンジは最後の1つで失敗して終わった。 #100個捨ててみよう <完>
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