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「だからね、福澤。」
名前を呼ばれるだけで心がざわつく。平静を装いながら、心の中はスクランブルエッグのようにぐちゃぐちゃだった。
気持ちを落ち着かせようと、一枚を残して集めきった紙束をトン、と机で叩く。と同時に紺色ブレザーの頬杖が解かれ、目の前の紙を易々と掬い上げた。
「私の100回目の告白相手になってくれない?」
もう一度言おう。人間、驚きすぎると声すら出ないものらしい。
「(いまコイツは何て言った?)」
差し出された紙を受け取る事すらせず、しばらくは意味を噛み砕く事もできなかった。
自慢ではないが頭の回転は早い方だ。なのに空っぽの頭で出した答えが正解なのかわからない。それを正解にして良いのかわからない。
だというのに、そんな状態で発声しようと思ったのは、辛うじて残っていた理性のようなプライドが花谷に言い負ける事を許さなかったからに違いなかった。
「断ったらどうなるんだ?」
「え?うーん…私の失恋記録が増える?」
「いや、そういう意味じゃなくて…、」
「違うの?だってつまり告白する前からフラれるって事でしょ?」
「いや、そう…なのかもしれないが、知りたいのはそこじゃなくてだな…。」
小首を傾げた花谷はそれからも首を傾げるばかりで、どうやら埒が明きそうにない。質問が通じないことは最早珍しくもなかったが、ただし頭を抱えるも、きょとんと瞼を瞬かせた返答がすべてのように思えた。
「せっかくだし失恋101回目を祝ってやりたいところだが、キリも良いしな。それにこれ以上不名誉な記録を更新させるのも憐れだ。」
「えー?嬉しいくせにぃ~。」
笑みを隠そうとしない花谷からコピー紙を受け取る。
下品なニヤけ笑いは嫌いだが、この含み笑いが嘲笑ではないことは分かっている。そんな笑みを浮かべるような奴じゃないから俺はコイツを好きになったのだし、何より、既に落ちかけて僅かも差さない夕陽に負けないほど、頬も耳も真っ赤だったのだから。
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