諸恋H&E

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 予想よりも粛々と行われた部長会議は怪我人を出すことなく無事に終わった。  とはいえ紫煙のように漂っていた剣呑な空気は会議室を澱ませ、余計な事を考えていたせいもあるのだろうが、終始重たい空気に当てられ続けた体はひどく気だるい。  ちょうど一年前、体調不良で欠席した当時の部長の代わりに、2年生ながら会議に出席する羽目になったアイツも今年は正式な部長だ。他の部長よりも一回多い経験がアドバンテージに繋がるほど簡単な役割でもない上に、元よりオツムが弱いアイツのこと。上手い立ち回りが出来る筈がない…と思っていたのだが、意外にもしっかりとしたプレゼンをこなし、お目当ての額を獲得してみせた。  確かに実績は自他共に認める所であったし、事前の生徒会内での打ち合わせでもきちんと部のアピールが出来れば認可できる額だと決めていたものの、動揺した。  何故かって、俺がアイツとクラスを違えてからまだ2ヶ月と経っていないのに、いつの間にか最上級生の面構えと物言いを覚えたアイツが別人のように見えてしまったからだ。  男子三日会わざれば刮目してみよと言うが、女子の場合は何日顔を会わす機会を失えば別人になってしまうのだろう。特に女は化粧をすれば数分にして化けるが、そんな見せかけのものではない。内面から湧き出るとでもいうのか、なるほど人気も出るわけだと思わせられる雰囲気を醸し出していた。 「(ああ、くそ、せっかく、ようやく、きちんとした失恋を迎えられたってのに。)」  左手に掴んだ紙束を机に放る。数十枚の分厚いコピー用紙は衝撃で僅かに広がり、銀色の目玉クリップに当たって控えめな扇形をつくった。  別棟3階1番奥という不便な場所に存在する生徒会室には、今は俺のほかに誰も居ない。今日の議会内容は書記が纏める手筈になっているが締め切りは今週中となっているし、俺は俺で他にもやらねばならない仕事があるからだ。華々しい印象を持たれることの多い生徒会長だが、学校側と生徒の間に経たされて実は一番面倒くさい。そもそも生徒会自体がただの雑用係なわけで、だがしかしこの程度で内申点が上がるのであれば安いものだ。  それにこうした下積みは、いざ社会人になった時に役立つ。雑用自体がではなく、雑用に雑用を重ねられることで発生するストレスを如何に内々で処理できるかという、主に精神コントロール面で。  書記時代も含めればこれまでの1年半あまりで随分と大人的思考を培われ、感情の起伏も減ってきたというのに…アイツと同じ空間で、久しぶりに顔を突き合わせたというたったそれだけでこんなにも乱されてしまうとは、俺も未だ子供らしい。
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