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「福澤に言いたい事があって。去年のこと…ハロウィンの日のこと、覚えてる?」
集めていた紙を一枚掴み損ねた。たったA4サイズのぺらっぺらな紙にすら俺は馬鹿にされているらしい。
摘まもうとして指をすり抜けたコピー紙はどういう了見か、まるでスキー上級者のように、相変わらず副会長の席で頬杖をつく花谷の前まで机上を滑った。
神はどうやら俺の事が嫌いらしい。試練か何か知らないが余計なことばかりしやがって。俺もアンタのことは嫌いだ。いま嫌いになった。名前からして嫌いだ。カミめ、このやろう。
「色々ね、考えてたんだ。あれからずっと。いつからなのかなとか、どうして私なのかなとか。」
言いながら、花谷の視線が紙の上を滑る。恐らく内容は頭に入っていないだろう。スケート選手顔負けの滑らかな滑りで一瞥を終え、こちらに向き直った。
「でもね、結局分かんなかった!」
頬杖に押し上げられた頬肉が目尻を潰し、唇を縦に伸ばす。アッチョンブリケーと言い出しかねないが、ムンクの叫びにしては悲壮感が足りない。すぐさま表に出てくる照れ笑いがなによりの証拠だ。あまりにも無防備で、高校生らしからぬ馬鹿っぽさが滲み出ていて見ていられない。
俺としては告白した事など今更掘り下げられたくないので花谷が何を考えていようが知ったことではないのに、それをどうしてわざわざ俺に伝えようとするのだろう。
早くこの場から立ち去りたい。どうして半年前の俺は告白なんてしてしまったのだろう。あれが無ければ、俺は今も素知らぬ顔でコイツの失恋記録を馬鹿にし続けていられたのに。そしてすぐに取り戻す笑顔を眺めていられたのに。
最低だと思われても仕方ない。そう思ったから花谷も俺を振ったのだろうし、そもそも俺は好かれる努力をしてこなかった。100回の失恋を繰り返して、尚も恋愛を諦めようとしなかった花谷とは大違いだ。
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