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僕には超能力があった。
と言っても、自由自在に空を飛んだり、巨大な怪物に変身したりとスーパーヒーローのように活躍できる力でなければ、炎や風を操ったり、物質を浮遊させたりと派手なことができるわけでもない。それでは一体どんな能力かというと、僕は「未来を予知する」ことができたのだ。
未来を予知する。
そう言えば聞こえは良いかもしれないが、正確には「コンマ100秒先の世界」を視ることができる程度だ。コンマ100秒先の世界を視るという事は、1秒だけ進んだ世界を覗くということだ。
たった一秒、風にさらわれた桜の花びらが地面に舞い落ちるまでの僅かな時間だけ、僕は進んだ世界を認知することができた。
何日も後の世界を覗くことができるのなら、もっと便利で使い勝手がある能力なのだろうけど、ほんの少し先の世界が視えたところで、何かの役に立つようなことは殆どなく、地味な能力の使い道にあぐねていた時、僕は彼女に出会った。
僕たちが出会ったのは高校の入学式だった。教室で初めて会った時から、僕は彼女に周りの人たちとはどこか違うものを感じていた。
彼女もまたそうだったらしく、僕たちは自然と仲良くなり、一緒に過ごすようになった。余り言葉は交わさなかったが、それでも不思議と繋がっている感覚があった。
しかし、二人の距離が物理的にも精神的にも近づいていくのと同時に、僕は漠然とした不安を覚えるようになっていた。
僕たちの間には、絶対的に分かち合えない何かが横たわっている。互いに感じている異常なまでの相性の良さの裏には、何か大きな秘密が隠れていると。
僕たちはきっと、いつまでも一緒にはいられない。そんな予感があった。
「ジャンケンをしよう」
「ジャンケン?」
「そう」
彼女とデートに出かけた帰りだった。目の前の公園で遊んでいる小学生たちの姿を見て、ふと僕は力の事を思い出した。夕日に照らされた二人の足元からは、仲良く寄り添う影が長く伸びていた。
僕は未来を予知することができる。それもコンマ100秒だけ。この力が最も発揮されるのはジャンケンの時ぐらいだ。僕は小学生の時、給食で余ったデザートを賭けたジャンケンで負けたことがなかった。
横断歩道の信号が変わるのを待ちながら、僕は掛け声を口にした。
「いくよ。最初はグー、ジャンケン」
そして能力を使おうとした瞬間、妙な感覚が僕を襲った。
「えっ」
「どうしたの?」
長らく使っていなかったからだろうか、まるでジャミングが入った様に能力が発動されなかった。つまり、彼女の未来が視えなかったのだ。
「いや、ちょっと」
視線を上げた瞬間、僕の身体は衝動的に動いていた。
僕の能力は、この瞬間の為にあったのだ。
※
私には超能力があった。
と言っても、自由自在に空を飛んだり、巨大な怪物に変身したりとスーパーヒーローのように活躍できる力でなければ、炎や風を操ったり、物質を浮遊させたりと派手なことができるわけでもない。それでは一体どんな能力かというと、私は「過去を後知する」ことができたのだ。
過去を後知する。
そう言えば聞こえは良いかもしれないが、正確には「コンマ100秒後の世界」を視ることができる程度だ。コンマ100秒後の世界を視るという事は、1秒だけ遅れた世界を覗くということだ。
たった一秒、風にさらわれた桜の花びらが地面に舞い落ちるまでの僅かな時間だけ、私は遅れた世界を認知することができた。
何日も前の世界を覗くことができるのなら、もっと便利で使い勝手がある能力なのだろうけど、ほんの少し後の世界が視えたところで、何かの役に立つようなことは殆どなく、地味な能力の使い道にあぐねていた時、私は彼に出会った。
私たちが出会ったのは高校の入学式だった。教室で初めて会った時から、私は彼に周りの人たちとはどこか違うものを感じていた。彼もまたそうだったらしく、私たちは自然と仲良くなり、一緒に過ごすようになった。余り言葉は交わさなかったが、それでも不思議と繋がっている感覚があった。
しかし、二人の距離が物理的にも精神的にも近づいていくのと同時に、私は漠然とした不安を覚えるようになっていた。
私たちの間には、絶対的に分かち合えない何かが横たわっている。互いに感じている異常なまでの相性の良さの裏には、何か大きな秘密が隠れていると。
私たちはきっと、いつまでも一緒にはいられない。そんな予感があった。
「ジャンケンをしよう」
「ジャンケン?」
「そう」
彼とデートに出かけた帰りだった。夕日に照らされた二人の足元からは、仲良く寄り添う影が長く伸びていた。
横断歩道の信号が変わるのを待ちながら、彼はある提案をした。
「ジャンケンで負けたら、何でも言う事をきいてね」
「えー、どうしよっかな」
何やら彼は妙に自信あり気な表情をしていた。何を企んでいるのだろう。
「いくよ。最初はグー、ジャンケン」
言われるままに手を出そうとした時、彼は困惑した表情で声を溢した。
「えっ」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと」
驚いたように視線を上げた瞬間、私は彼に勢いよく突き飛ばされた。
衝撃が迫り、過ぎ去って行く。
劈くような音の中に、彼の声が聞こえた気がした。
それはきっと、聞き逃してはいけないメッセージだ。
私はすぐに能力を発動し、零れ落ちたコンマ100秒を再生した。
私の能力は、この瞬間の為にあったのだ。
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