ボランティア部

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ボランティア部

「私がボランティア部に?絶対嫌なんだけど!」 職員室中に私の声が響き渡る。何人かの先生がこちらに振り向いたが関係ない。 身振り手振り、全身を使って私は田辺先生の提案に拒否反応を示した。 「あら、そうなんですか?」 先生はそんな私のオーバーリアクションを気にも止めず、呑気にお茶を啜っていた。 この白髪混じりのおばあちゃん先生は、私の担任でありボランティア部の顧問でもある。 そう、あの真木がいるボランティア部の顧問なのだ。 ✳︎✳︎ 本日私は職員室に呼び出された。 呼び出される覚えがありすぎてドキドキしてたけど、蓋を開ければなんてことない要件だった。 「そろそろ山野さんにも部活に入ってもらわないとねぇ。知ってるでしょうけどうちの中学は全員部活動に所属してもらう決まりになってるの」 「しょうがないじゃん。入ってた部活がなくなっちゃったんだから」 私が2年間所属していたフォークソング部は部員の大半が卒業したためこの春を持って廃部となった。 まぁ私は幽霊部員だったからあの部活になんの思い入れもないけど。 「どうしても嫌ですか?ボランティア部」 「嫌っていうか……」 「山野さんの条件にもピッタリ当てはまると思うのですが。文化部で休みの日に活動がなくて部員が少ない。こんな部活他にありませんよ」 「それは魅力的だけど……」 「あとあんまり大きな声では言えませんが部活動も内申点をつけるときに参考にしているんですよ。ほら、山野さん内申点についても気にしてましたよね」 真綿で首を絞めるとはこういうことを言うのだろうか。先生の手によってどんどん断りにくい状況が出来上がっていく。 確かに内申点のことを突かれると私は弱い。 成績も並だし先生からの心象も良くないので内申点がすこぶる悪く、親からも自分の将来をどうするのか詰められ始めたところだった。 中学3年生になった私だけど、まだ先のことは何も考えていない。 「うーん、確かに内申のことは、でもなぁ」 「山野さん。そんなに悩むんだったら一度部活にいらっしゃいな。そこから入るか決めたらいいじゃないですか。さ、じゃあ行きましょう。もう部活動の時間は始まってますからね」 「え、ちょ、まっ」 こうして私は半ば強制的にボランティア部の扉を叩くことになった。 ✳︎✳︎ 「先生、こんにちは」 「はい、真木君こんにちは」 授業では使わない北館2階の多目的室B、そのボランティア部の部室にはやっぱり真木がいた。 幽霊みたいに青白い肌。もっさりとした前髪の奥に潜む目からはあまり気が感じられない。 「山野さんももっと中にいらっしゃい。そんな端っこだと寂しいでしょう?」 「いや、別に寂しくは」 とは言いつつも、先生に押し負け私は言われた通り真木が座っている机に近づく。 「真木君、今日は1人部活見学に来ていてね、こちら山野真緒さん」 「初めまして。僕は真木正樹です」 私の目をまっすぐ見た後、ペコリと頭を下げる真木。なんでそんなまっすぐ私の目を見れるんだ。 「ええっと、山尾さんで合ってる?」 「合ってない。てか初めましてじゃないんだけど」 真木とは3年になってから同じクラスで席も隣。今朝だって挨拶こそしてないが顔は見ているはず。 「そうだっけ。でも僕山野さんと喋るのははじめましてだよね?」 「ま、まぁそうだけど」 「じゃあはじめましてだね。だって始めてなんだもんね?山野さん今日はよろしく」 真木のこういうところが私は嫌い。 つかみどころがないというか、変わり物というか。 真木の一挙手一投足が私には理解できない。 それは他の生徒も同じようで、真木はクラスメイトからどこか遠巻きに見られている、らしい。 私も誰かから直接聞いたわけではないけど。 「真木君、今日の活動は何をするんですか?」 「折り紙です」 「あぁ、そうでしたそうでした。では、山野さんも一緒にやりましょう、簡単ですから」 さぁ、と先生が椅子を引いて着席を促すが私は全くついていけない。なんで中学3年にもなって折り紙なんかしなくちゃいけないんだ。 「星がいるんだ」 「星?なに星って?」 真木から手渡された折り紙は色とりどりの50枚セット。この紙を折れってこと? 「あ、星は黄色か赤でお願い。暗い系の色は泣いちゃうもんね」 「はぁ?え、なんの話?」 「僕も昔は苦手だったよ。暗い色って怖いし痛いから」 「……」 会話が成り立たない。もう帰ってやろうか。 「近所にある幼稚園のお遊戯会がもうすぐあるんですよ」 イライラして私がガシガシ頭を掻いていると、折り紙の星を3つ持った先生が間に割って入ってきた。 「そのお手伝いをボランティア部はしているんです。前のお誕生日会でも飾り付けを手伝ったんですけど黒と紫で作った星が不評だったらしくて。まぁ確かに子供にとって暗い星というのは怖いのかもしれませんね」 「はぁ」 「さぁ、時間は有限です。どうですか、一緒に作っていきませんか」 「まぁ、じゃあはい」 強引な先生に言いくるめられ、私はお手伝いするボランティア部のお手伝いをすることになった。 別にやりたいことではないけれど、だからといって他にやりたいこともないし。 「山野さんって不器用なんだね」 「う、うるさいなぁ!ていうかアンタが器用過ぎなのよ!」 あれから数十分、先生と真木の前には山積みになった星々。一方私の前には紙屑の山が出来上がっていた。 「なんでそんな綺麗に折れるのよ」 真木の作った星は、綺麗な五角形でシワもなく、折り紙の角が鋭く尖っている。 「なんでそんな汚くなるの……?」 「くっそ、腹立つなー!見とけよ、最高に綺麗な星作ってやるんだから!」 勢い良く折り紙を抜き出し、紙を半分に折った。 「あっ、ほら」 ふと気づくと真木は私の隣に座っていた。真木以外の男子だったらドキドキしちゃう距離感。こんな近くに異性がいるって初めてだな。 「折る時はキチンと角を合わせるんだよ。面倒くさがらずにさ、なんだったら定規を使って丁寧に折ってもいい」 「えー、めんどくさいよ」 でもいくら浮いた話がない私でも真木相手にロマンスは始まらないよ。 こういうチマチマしたこと言ってくるのもタイプじゃないし。 「ほら、投げやりにならないで。子供達のためだから」 「うぐっ」 それを言うのは反則でしょ。子供のためなんて言われたらちゃんとやるしかないじゃん。 「一個ずつ順序を踏めば絶対完成するんだから」 「わかったわかった。丁寧にやるから、次の紙貸して」 「ん、一緒に頑張ろう」 真木相手にドキドキなんてするはずないけど、この時の真木の笑顔はちょっと可愛く思えた。 最終的に私が綺麗な星を作れたのは下校時間ギリギリになってからだった。 「さて、じゃあ2人とも帰る支度をしましょう。この星は先生が責任を持って保育園に届けに行きますから」 折り紙の星が入ったダンボール箱に手をのせて、先生はそう言った。 「先生、僕持ちますよ」 「あらそうですか。ありがとうございます真木君。じゃあ悪いけど職員室まで持っていてくれる?」 了解しましたと固い返事をした後、真木は職員室へと消えていった。 あいつ、あんまり悪いやつじゃないのかな。 部室に取り残された私と先生。真木を待つのも変だし私も帰ろう。 「山野さん。どうでしたか、今日は」 「まぁ、思ってたより悪くなかったですけど」 「あらまぁ、山野さんにとっての久しぶりの学校が充実していたみたいで良かったです」
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