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テンテキの襲撃
「好きなんだよ」
――あれ?
俺の頭の中は真っ白に、思考回路は完全停止、身体は背後の建物の壁に押さえつけられるような形で固定、ただ目の前の鋭い眼差しを向ける男に釘付けにされている。
――どうしてこうなった?
ぽた、と頬に水滴が落ちる。それを合図に天から大粒の雨が降り注ぐ。人気のない路地裏に取り残された男二人をずぶ濡れにする。クリーニングしたばかりのスーツに身を包んだ俺は、ああ三千円が、と頭の中で呟く。今はそれどころではないはずなのに。
「お、おい、雨――」
話をはぐらかそうとしたが、全ての意識を俺だけに注いでいるようで、目の前の男、秀仁はびくともしない。
「城、あんたの気持ちを聞きたい」
ああ、だから子供は嫌いだ、と心底思った。常にゼロかイチか、白黒付けたがる癖、自分の感情だけで突っ走る情熱。そんな煩わしいのは大嫌いだ。曖昧が、適当が、織り交ぜた嘘が、余裕のある心が、心地いいのに。
止みそうもないな、と黒く厚い雲が広がる空を睨み付け、こんなことになるなら、と一週間前の自分を呪った。
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