部屋探し

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 それからだと思う。中年の男性を見ると、親しみや憧れを覚えるようになったのは。逆に同じくらいの年齢の子や年下に興味が湧かなくなったのは。恐らく竹山さんの思い出は俺にとって良いものでしか無く、更に人より先に性に目覚めてしまったせいでそれを知らない子達が嫌になってしまったのだと思う。その感覚は思春期を経て性癖に変わり、今に至るわけだ。  時計を見てぼんやりとし過ぎたことに気付いた。この性癖に不思議と困ったことは無いし、構わないと思っていたので今まで深く考えなかったのだが、どうして急に過去を掘り出したり自己分析を始めてしまったのだろうか。答えの出ない問答は止めて、俺は慌てて外へ出た。 「悪い、待たせた」  俺の言葉には反応せずに、物件の載っているプリントを差し出した。これがいい、ということなのか。 「じゃあ、そこの不動産屋に行こうか」  相手が反応しないと独り言のようだなと思いながら、鍵を閉めてはっとする。この男はどうやって部屋に侵入したのだろうか、と。答えないことを前提に聞こうと思った瞬間だった。 「鍵の事だけど……管理人のお婆さんに事情を話したら鍵を開けてくれたから、不法侵入じゃない」  エスパーか、と思うと同時に親切な良いおばあさんだが、相手が犯罪者だったらどうするつもりだったのか、と呆れてしまった。 「そうか。まあ、良いよ」  それっきり最寄駅に着くまで会話も無く、駅の券売機での遣り取りを除けば、不動産屋まで会話らしいものは何もなかった。どうせ返事は無いのだし、と諦めてしまったから。
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