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不動産屋に着いて、先の物件について従業員に話した。1K、家賃五万、駅まで徒歩十分という良物件だ。
「申し訳ありません。こちらの物件、一時間前に決まってしまいまして……」
何ということだ。俺が寝坊したせいで、秀仁とおさらばできるチャンスを逃してしまったのである。後悔しても遅い。
「同じような物件、他にありませんか」
隣の秀仁の視線に気付き、慌てて従業員に言う。カチカチとパソコンを操作してみるも、「この家賃だと、もうトイレと風呂別の部屋は無いですね。1Rの風呂なしの四万五千円の物件しかないですね。家賃を一万円上げてもらいますと何件か――」
「じゃあいいです」
言い終える前に隣からぴしゃりとはねつける言葉が飛び出し、秀仁は俺を置いて不動産屋から出てしまった。俺は従業員に「すみません」とフォローを入れて慌てて追いかける。
「お前、勝手なことを――」
「親に負担を掛けられないから家賃は五万が限度。だからって古過ぎるのも通学に時間が掛かるのも部屋の設備を甘くするのも嫌だ」
この時期にそんな部屋あるわけないだろう、と思うけれど、数時間前まであったわけで、そこを借りられなかったのは俺の失態のせいなわけで。ここで突っ撥ねられたら楽なのに、と思いながら、俺は溜息を吐いた。
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