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「あと条件に合うのはこれだけ」
そう言って一枚プリントを差し出す。1R、家賃四万八千円、駅まで徒歩十三分と書かれている。先の物件には劣るが、良さそうなリノベーションマンションだ。
「よし、すぐ行こう!」
もうこうなったらここに決めるしか、と意気込んでまた電車に乗って不動産屋に向かう。が、プリントを見せた従業員の反応に地獄に突き落とされる。
「申し訳ありません、先程決まってしまいまして……」
「そ、そうですか……」
秀仁の視線を隣から感じる。咎められている感じがして、視線を逸らす。
「同じような物件でしたら、二件良いのが今日入ってきまして、ご覧になりますか」
「ぜひ!」
もう藁にも縋る気分で物件情報を見せてもらう。駅まで徒歩十五分の物件が二件。設備には申し分ない。ちら、と秀仁の様子を窺うが、文句が飛んで来ないのは良いということだろう。
「部屋の方、拝見させてもらえますか」
「はい、大丈夫です。車を回しますので、外でお待ちください」
このどちらかに決まれば、今日で煩わしいこいつともおさらばだ。にやつかないように気を付けつつ出入り口の前に立っていると、ちらちらと通りを歩く人の視線を感じる。向かいの店舗の喫茶店にいる女子高生三人組が笑顔でこちらに手を振っている。視線を点で辿ると、隣の秀仁に行き付く。
「モテるんだなあ。女がお前を見てるぞ。あそこの女子高生なんか手振ってアピールしてるし」
反応は無く、相変わらず無表情で沈黙を保ったままだ。この性格を置いておけば、顔は良いし高身長だし、俺と同じ大学に受かるくらいだから頭もそこそこ良いのだろうから、女が放っておかないとは思う。彼女の一人や二人居ただろうし、今も進行形で居るのかもしれない。聞いても答えないだろうし、彼の恋愛遍歴に興味があるわけでもないから聞かないが。
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