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「……昔、同じように俺の手を引いてくれたよな……」
「は? あれはお前が葬式始まるっているのに動かないから、無理矢理引っ張っていっただけだろ」
隅の方で一人で遊んでいるあいつの腕を引っ掴んで式場に連れていった。俺の親父は喪主だったし、勝仁おじさんも親父と一緒に参列者の相手で忙しかったから俺にまかせっきりだったのだ。
ふと親戚の集まりの時に秀仁が祖父と二人で祖父の庭の木々を見て回っている姿を思い出した。無表情だけれど、何だかその後ろ姿が楽しげに見えたんだっけ。
もしかしたら、秀仁は爺さんのことが好きだったのかな、と思った。物腰の柔らかい優しい笑顔の爺さんと勝仁おじさんは瓜二つだって言われていたけれど、彼もそれを感じていて心を許していたのかもしれない。
葬式の日、ぼんやりとして無表情で一人で遊んでいた彼は、本当はすごく寂しかったんじゃないだろうか。思い出す小さな背中は、寂しい悲しいと言っていたように思えて、俺はぽんぽんと腕を叩いた。
「……何?」
「いや、何となく」
もしこいつが昔みたいに小さかったら、俺は頭を撫でてやったんだろうけど、俺の頭一個分くらい大きくなった今では、これくらいが限界だった。
「城……恋人はいるのか」
「な、何だよ急に」
駅前のロータリー前で信号待ちをしているところで、また唐突な爆弾投下である。本当に何を考えているか分からない。
「……恋人はいない。ずっと」
「いない……のか」
その言い方が哀れんでいるように聞こえて、俺はイラッとして秀仁を睨み付ける。
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