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「代わりみたいな人はいるよ。大学の時から相手してくれてる教授。セフレなんて俺達の世界では珍しいはなしじゃないし、俺は恋人なんて堅苦しい間柄なんか御免だから。それに相手金持ってるし、大人だし家族持ちだし、気楽でいいしな。お前と違って」
何で「お前と違って」なんて言ったんだろう。別に秀仁とどうこうなるつもりはないから、比べる必要もないのに。
「……そんな不誠実な男はやめろよ」
真っ直ぐに俺を見下ろす彼の視線が突き刺さる。苛立ちと、よくわからない焦燥感に襲われ、視線を逸らす。
「なんでお前にそんなことを言われなきゃいけないんだ? 俺が好きでやってることだ。見た目も年齢もストライクだし、あっちの方だって相性良いんだ。他を探す理由なんかないだろ?」
俺は嘲笑しながら、秀仁を見上げた。俺は誰を嘲っているのだろうと思いながら。
「それとも何か? お前が俺の相手でもしてくれるっていうのか?」
彼の目はいつになく真剣だった。その目に射られて、俺はその後続く言葉が、答えが、恐ろしくなった。
俺は逃げるようにロータリーに止まっていたタクシーに乗り込んだ。
「○○グランドホテルまで行ってもらえますか」
藤崎教授との約束にはまだ早いけれど、ここと自宅以外の逃げ道を俺は知らなかった。そう、ただ逃げたかっただけだ。あいつの真剣な眼差しの先に待っている答えが何なのか、それを知りたくなかった。
俺は焦っていた。どうしてこんなことをしている? 考えている? どうしてあいつには大人の対応ができないのだろう? ただそればかりが頭の中を渦巻いていた。
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