テンテキの襲撃

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「部屋探しに来たんだろう。勝仁おじさんから連絡があった。明日朝から行くんだろうし、だったらここに居た方が効率がいい」 「……どうして」 「俺が手伝ってやるって言ってるんだ。お前みたいな田舎者、道に迷ったり、簡単に人を信じるから変な部屋借りさせられたり、悪い奴に騙されたりするのがオチだからな」  その言葉を聞くと、彼の腕から力が抜け、またソファの側にスポーツバッグを置いた。一瞬、彼が嬉しそうな顔をしたのは気のせいだろうか。余りにも表情が乏しくて分からない。  つい顔が若い勝仁おじさんだからか、それとも勝仁おじさんの顔がちらついてしまったからか、結局追い出すこともできず、むしろ居ていいというようなことを言ってしまった。  秀仁に聞こえないよう溜息を吐くと、寝室のクローゼットにある冬用の毛布を取りに行った。奥まったところに入れていたので手間取り、数分後にリビングに戻ると、ソファに横になった彼が、浅い寝息を立てていた。黙って動かなければ、綺麗な顔をしているし、三十年ぐらい歳を取れば勝仁おじさんのような俺好みの紳士になりそうなんだが、と思いながら毛布を掛けてやる。  テーブルの上に放置されている本を全部まとめて寝室のベッドの下に隠すと、風呂に向かう。風呂上りは普段全裸でうろうろするところだが、着替えの服を脱衣所まで持って行かなければならない。  シャワーで済ませて、リビングに戻り電気を消して寝室に戻る。  さて、明日で決着を付けなければ、とノートパソコンを起動させ、不動産会社のマンション・アパート情報をK大の最寄駅から路線に沿って片っ端から見ていく。いくつか候補をピックアップし、プリンタで印刷して持っていたファイルに不動産会社ごとに分けて入れていく。  すべての作業が終わったのは、深夜三時だった。我ながら、仕事終わりによくやった、と思う。  重たい身体をベッドに横たえ、目を瞑る。明日は八時には起きて不動産会社に九時には行かなければ。そう思い、ぼんやりした頭で携帯を手にした。
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