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「……何?」
「いや、秀仁は綺麗だな、と思って」
やましい気持ちが無かったから、一見すると気障な台詞をさらっと言ってしまった。
「……外で待ってる」
そう言うと、ファイルを持って部屋から出て行ってしまった。ゲイにそんなことを言われて貞操の危機を覚えたのだろうか。だとしたら、あいつには後でちゃんと俺の性癖について話してやった方がいいのではないだろうか。いや、余計変な目で見られる可能性もある。俺が無意識の差別に一日我慢すれば済むのであれば、その方が良いのかもしれない。
それでも差別というのに晒されるのは最悪だ、とトーストを口に放り込んでコーヒーの最後の一口を飲み干し、財布と携帯を手に取る。と、携帯のメールが一通届いていた。表示には「藤崎教授」。
「今晩、空いているか? いつものホテルを予約しておいたから、都合が良ければ八時に来てくれないか」
「藤崎教授」との関係は完全に身体だけの、所謂セフレであり、この関係は大学在学中に声を掛けられてからずっと続いていた。出会った当時、俺は十八歳、教授は四十歳だった。大学の学生と教授という背徳感が堪らず、また身近でゲイの男性と出会ったことがなかったので、学校で声を掛けられた時は舞い上がったものだ。ちなみに俺も若かったので、その頃は四十代もストライクゾーンだった。
教授との出会いによって、元々交際経験の無かった俺に色々と教えてくれ、それにより俺は完全に開花してしまった。若い分体力のあった俺は、教授とそのお友達数人とのプレイも愉しんだりして、毎日誰かの男根を咥え込んでいるような淫乱っぷりを発揮し、それはそれは乱れた生活をしていた。
今はもう三十三なのでそのようなことはないが、未だにその名残で週一は誰かと寝ないと落ち着かなくなってしまった。その相手は、いつも藤崎教授だ。
五十五歳になった教授は今や俺のどストライクだし、見た目も小奇麗な紳士で、夜はSっ気のある言葉責めと濃厚なプレイでたっぷり可愛がってくれる。が、出会った当時から妻子持ちだったせいか、彼に恋をしたことはなく、その辺は割り切っているので、恋人という感覚は持ち合わせていない。
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