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そう考えると、俺は恋をしたことも恋人が居たことも無いのか、とふと思った。好きになるのは画面の向こうの俳優ばかりだし、リアルで好きになりかけたのは、小一の時、同じマンションのに住んでいた「竹山さん」ぐらいのものだった。
竹山さんは、定年を迎えた六十半ばの御爺さんと言っていい男性だった。竹山さんは引っ越してきてから、毎日マンションの下にあるベンチに居て、マンションの人達に挨拶をしてくれる柔和で朗らかな笑顔が印象的な人だった。
ある日、学校が終わって家に帰ると、母親が丁度買い物に出掛けていていなかった。仕方なくマンションの下のベンチに座っていると、竹山さんが声を掛けてきた。親が出掛けていていないことを伝えると、竹山さんは「御菓子を食べながら私の家で待っていなさい」と言って、俺を自宅に招いた。竹山さんは沢山の饅頭や煎餅を出してくれ、家では御菓子をそんなに食べさせてもらえなかったので嬉しかった。御菓子を頬張っていると、竹山さんは急にこんなことを言うのだ。「身体を気持ち良くしてあげようか」。よく家族で温泉に行くことがあり、父親が年配の男性から身体を揉まれて気持ちよさそうにしていたのを思い出して、俺はそれをしてもらえるんだと勝手に解釈し、言われるまま裸になった。竹山さんは今まで見たことも無い鋭い目つきになり呼吸を荒げながら俺の身体に触った。幼い陰茎を手で撫でまわし、俺の乳輪を弄り始めた。その時お父さんがしてもらっているのとは違う、と分かったのだが、触られると気持ちが良いのは確かで、俺はされるがままなされるがまま、その行為に身を委ねた。
その行為が終わると、竹山さんは俺にチョコレートを一つくれた。「誰にも言わないんだよ。でも、また来たかったらいつでも来なさい」と言いながら。
その日から母親が居ない時は毎回竹山さんの家に行った。御菓子も食べられて気持ち良くなれるのだから。しかし、それがいけないことだったと分かったのは数か月経った頃だった。竹山さんは同じマンションに住んでいた女の子に猥褻行為をしたとして捕まったのである。母親は俺に何もされていないか心配そうに聞いてきた。俺は竹山さんが好きだったので嘘を吐いた。多分恋とは違って、親切なおじさんとして好きだったのだと思うが。
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