一章

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下校のチャイムが鳴りスマートフォンを覗くと、母からメールが届いていた。 「お父さんが体調崩したらしいから、今日の夜はそっちに行きます。晩御飯は適当にしてください」 適当、カレーくらいしか作れないけど桐一は食べるだろうか。 隣のクラスを覗くとまだ桐一は鞄に荷物を片付けていた。私は一度深呼吸をする。 「……ねぇ桐一。今日、お母さん帰ってこないみたいなんだけど」 桐一の返事はない。私を見ようともしない。 「ねぇってば、聞こえてるでしょ?」 桐一は素知らぬ顔で帰り支度を続けている。私の存在すら認めてくれないのかと躍起になったのがいけなかった。 「桐一ってば!」 「触んな!」 肩に触れた手が反射のように弾き飛ばされる。騒がしかった教室が水を打ったように静まり返った。 「……知るかよ俺が!」 桐一は私を突き飛ばして教室を出て行く。誰も私に声をかけることができないのか揃って顔を伏せ気味だ。 私は唇を両歯で挟んで教室を出る。 ……こんなつまらない喧嘩で涙を流す妹なんて、いないのだろう。
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