一章

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 もう料理なんてする気になれなくて、スーパーのおつとめ品を適当に買って夜道を歩く。夜道とはいえそんなに暗くもないのでいつもどおりのんびりと歩いていた。 桐一は今日の夕飯をどうする気だろうか。両親が家を空ける日はわりとあるのだが、二人で食卓を交わしたことはここ数年一度もない。  まぁ、私の残りを置いておいたら勝手に食べるだろう。 「!?」 いきなり口元を後ろから押さえ込まれる。頭が物理的に動かないので目玉だけおろすと、毛むくじゃらの太い腕が少しだけ見えた。そして私は進む方向とは別の方向に抱え込むようにして引っ張られていく。 「んっ! んー!」 (もが)いて暴れているのに、足は全然前に進まない。そうこうするうちに身体が半回転。見知らぬ顔がてかてかした中年の男。あっという間に背筋に上り詰める悪寒。連れて来られたのは家と家の隙間だ。そのまま体当たりされて身体の上に乗られ、獣のような呼吸をする男の涎が制服に落ちる。 「ひっ……」 声帯にクリップが挟まれたみたいに声が出ない。頭をよぎるのは飽きるほど大人に唱えられた「夜道は危ないから気をつけて」という台詞。 べたついた手が無遠慮に触れてくる私の腹はざらついている。首に生臭い息を吹きかけられ、ブラジャーを鷲掴まれて捲りあげられて、スカートの中からショーツに手を掛けられ、脳がグルグルと旋回して意識を飛ばす寸前のことだった。
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