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「買い物とかするんだ。普通の女の子だね」
彼女はヘラヘラと笑いながら、「普通」という言葉をいやに強く発音した。私は彼女の両手を振り解いて距離を取る。
「やだーそんな怖い顔しないでよー」
自分でさせておいて。美来奈は黒いパーカーワンピースにバックベルトのないサンダルをゆるく合わせている。彼女が少し動くと、バニラと生姜が混じったような甘い香りが鼻先まで漂ってきた。
「ねぇ蘭ちゃん、その手に持ってるワンピース買うの? 部屋着?」
「いけしゃあしゃあ」とはこういう人を指すのだろうか。まるで土足でリビングまで入り込まれたみたいだ。
「関係ないでしょ」
「いーじゃん教えてくれたって。隠すようなことでもないし」
しつこく聞かれ続けるのも煩わしいと思い、渋々答える。
「……高校の友達と遊ぶ時の服」
「えっ、まじ?」
美来奈は急に真顔になると、ワンピースの値札を見て、セールの服が並んだ棚に視線を移した。
「何なの?」
美来奈は私の言葉を完全に無視してハンガーを手繰る。列の半分の所でようやく手を止め、取り出したワンピースを私に合わせてきた。
「蘭ちゃん、同じくらいの値段で選ぶならこっちのがいいよ。色も上品だし絶対似合う」
薄紫のオーガンジーを使ったふわっとしたワンピース。確かに自分で選んだものより顔が映えて様になっていた。しかし、ふんぞりかえるような彼女の顔を見ると感謝より嫌味が浮かんでしまう。
「塩でも送ったつもり?」
「しお? ごめん、私高校もろくに通ってなくてさ、難しい言い回しとかよくわかんないんだよね」
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