五章

19/22
前へ
/121ページ
次へ
 何この、正面から水を引っ掛けられたみたいな感覚。自分が酷く見っともない、恥ずかしい存在に見えた。  わかっていたのに。私の言いごとの全てが、とうに破綻していたことくらい。  美来奈が全て正しかった。  桐一は断片的なことで人を判断しない。第一印象も周りの評判も関係ない。色んなことをひっくるめて、自分で評価を決める。  水商売の女だから何だって言うんだ、って呆れ顔をする桐一の声が脳内で聞こえる。  店外の古紙回収ボックスの前で、スカートのポケットから鳴り出したスマートフォンを取り出した。  ——桐一。  何か用事があるから掛けて来たのだろう。  出なきゃと思いながらも、親指が通話ボタンを押さないまま、とうとうスマートフォンは沈黙した。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加