一章

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「桐一が好き……!」 背中をさすっていた桐一の手が止まった。恐る恐る顔を見ると、さっきまで痛ましげにしてくれていた表情が無くなっていた。 終わった、と絶望する。でももう、抑えきれなかった。 「桐一以外に触られたくない。他の男は気持ち悪い。桐一じゃないと嫌だ……!」 涙をぼろぼろ流しながら喚く私を、目の前の兄はどう思っているだろうか。気が狂っていると、憐れんでいるのだろうか。 泣きじゃくる私に与えられた言葉は、残酷だった。 「おぞましいと思っていた……」 息の根が、止められたかと思った。 予想と寸分違わない返事だった。それでも心の何処かで期待していた。数年来会話もしてない兄に向かって馬鹿げた期待だとわかっていたのに。
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