一章

18/19
前へ
/121ページ
次へ
「蘭! おい蘭!」 ペチペチとほおを叩かれて私はゆっくり目を開ける。 片手で私を持ち上げた桐一が真っ青な顔で私を見下ろしていた。 「あ、起きた……急にぐったりしたから耐えられなかったのかと思った……」 子宮の辺りにまた残る鈍痛に気付き、太腿の間から垂れているヌルッとした液を見る。 「……」 ぼろっと涙が落ちてギョッとした桐一を、私はぎゅっと抱き締めた。 「こんなこと、一生望めないと思ってた」 桐一は私をしっかりと受け取めながら、背中を撫で、頭の上できっぱりと言う。 「俺、一生女は蘭しか抱かないから」 「蘭」と何年か振りに呼ばれて、私は桐一に涙だらけの顔を押し付けた。 「うん……」 この日私たちは世間の常識に抗っていくことを決めた。だけど怖いものは何も無かった。この世で一番欲しかったものを、手に入れたのだから。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加